障害者雇用の最低賃金と一般雇用との違いを解説
このコラムでは、障害者雇用における最低賃金の仕組みや一般雇用との違いについて、わかりやすく解説していきます。
「障害者雇用だと、賃金が低くなるの?」「最低賃金ってそもそも何?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
最低賃金の制度を正しく知ることで、自分に合った働き方を考えやすくなります。
また、障害者雇用と一般雇用での給与の違いや、その背景にある制度や支援についても詳しく説明します。
ぜひ最後までご覧ください。
最低賃金制度の概要
最低賃金とは、法律で定められた労働者が最低限受け取るべき時給のことです。
これは、働くすべての人が生活できるようにするためのルールで、企業は必ず守らなければなりません。
しかし、地域や業種によって最低賃金の金額は異なりますし、特別なケースでは例外的な措置が認められることもあります。
ここでは、最低賃金制度の基本的な仕組みについて、詳しく見ていきましょう。
最低賃金法と地域別最低賃金
最低賃金は、最低賃金法という法律によって定められています。
この法律のもと、日本では「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」という2種類の最低賃金が設定されています。
地域別最低賃金とは、都道府県ごとに決められるもので、全国一律ではありません。
たとえば、2024年度の東京都の最低賃金は時給1,163円ですが、地方ではそれより低い場合もあります。
一方、特定最低賃金は、特定の業種に対して適用される最低賃金です。
たとえば、自動車産業や製造業などでは、一般の最低賃金より高く設定されることがあります。
このように、地域や業種によって最低賃金は変わるため、就職・転職を考える際には、自分が働く場所の最低賃金がいくらなのかをチェックしておくことが大切です。
特定最低賃金とは
特定最低賃金は、特定の業種に適用される最低賃金です。
これは、その業種に必要なスキルや専門性を考慮し、一般の最低賃金よりも高めに設定されることが多いのが特徴です。
例えば、鉄鋼業や電気機器製造業などでは、地域別最低賃金よりも数百円高い水準が設定されています。
ただし、すべての業種に特定最低賃金があるわけではなく、対象となる業種に当てはまる企業に務める方のうち、主要な業務を行う一部の職種に限られています。
特定最低賃金が適用される業種で働く場合は、給与が通常の最低賃金より高くなることが期待できるため、自分が希望する仕事に該当するかどうかを事前に調べておくと良いでしょう。
減額の特例許可制度
最低賃金には、「減額の特例許可制度」というものがあります。
これは、ある特定の条件を満たす場合に、最低賃金よりも低い賃金での雇用が認められる制度です。
例えば、心身の障害により、通常の業務をこなすのが難しい場合や、長時間労働ができない場合、能率を求めない軽作業などに適用されることがあります。
全ての人に最低賃金を一律に適用すると、柔軟な対応ができずにかえって雇用機会を狭めることもあることから、より幅広い方への雇用を生み出すための制度となっています。
ただし、この制度を適用するには、事業者が労働基準監督署へ申請し、許可を得る必要があります。
また、すべての障害者雇用に適用されるわけではなく、企業と本人が話し合いのうえで決定されるものです。
そのため、「障害があるから最低賃金以下でも仕方がない」と思う必要はありません。
むしろ、自分が受け取る賃金が正しく設定されているか、しっかり確認することが大切です。
障害者雇用と一般雇用の賃金の違い
障害者雇用では、一般雇用と比べて賃金が低くなりがちという話を聞いたことがあるかもしれません。
「障害者雇用だと給料が安いって聞いたけど本当?」
「なぜ一般雇用と差があるの?」
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
ここでは、障害者雇用の賃金がどのように決まるのか、一般雇用との違いについて詳しく見ていきましょう。
障害者の雇用形態と労働時間
障害者雇用では、フルタイム勤務だけでなく、短時間勤務や時短勤務など、さまざまな働き方があります。
これは、障害のある方が無理なく働けるようにするための配慮として、多くの企業で導入されている仕組みです。
一方、一般雇用では、基本的にフルタイム勤務(週40時間労働)が前提となることが多いため、労働時間の違いがそのまま収入の差につながることもあります。
フルタイムと短時間勤務の違い
フルタイムで働く場合と、短時間勤務で働く場合の違いを、具体的な例で見てみましょう。
働き方 | 1時間あたりの賃金 | 1日あたりの労働時間 | 1ヶ月あたりの賃金(例) |
一般雇用(フルタイム) | 1,100円 | 8時間 | 約176,000円 |
障害者雇用(短時間勤務) | 1,100円 | 4時間 | 約88,000円 |
※上記は一例で、地域や業種によって異なります。
このように、時給が同じでも労働時間が短いために、月収が少なくなるケースが多いです。
また、雇用形態としては障害者雇用の働き方には、大きく分けて正社員・契約社員・パート・アルバイトなどがあります。
例えば、1日4時間勤務のパートタイムで働く人もいれば、1日6時間の時短勤務の契約社員で働く人もいます。
このように、障害者雇用では、個人の体調や状況に応じて柔軟な働き方が選べるのが特徴です。
そのため、働く時間が短くなる分、収入が一般雇用よりも低くなるケースが多いという側面があります。
ただし、短時間勤務には「体調を考慮しながら働ける」「仕事と生活のバランスを取りやすい」というメリットもあります。
そのため、自分の体調やライフスタイルに合った働き方を選ぶことが大切です。
障害種別ごとの平均賃金
障害者雇用の賃金は、障害の種類や特性によっても違いがあることがわかっています。
厚生労働省が公表している「障害者の就業状況調査」(2023年)によると、以下のような賃金の傾向があります。
身体障害者の平均賃金
身体障害者の方の平均賃金は、月額約23万5千円です(令和5年)。
これは全体平均であり、週30時間以上の勤務で絞った場合の平均は月額約26万8千円となっています。
他の障害種別と比べると、比較的賃金が高めですが、その理由として、以下の点が挙げられます。
- デスクワークなどの一般職と同じ業務をこなせるケースが多い
- 身体障害に対応した環境を整えた企業が増えている
- 障害者雇用の中ではフルタイム勤務の割合が高い
そのため、企業が求めるスキルを身につけることで、より高い給与を得ることも可能です。
知的障害者の平均賃金
知的障害者の方の平均賃金は、月額約13万7千円です(令和5年)。
これは全体平均であり、週30時間以上の勤務で絞った場合の平均は月額約15万7千円となっています。
主に軽作業や単純作業が中心の職種に従事することが多いため、一般的な事務職などに比べて時給が低くなりがちです。
また、知的障害のある方は、作業を習得するのに時間がかかることがあり、そのため短時間勤務を選ぶケースも多くなっています。
一方で、企業によっては「得意な作業を伸ばして戦力になってもらおう」と考え、賃金アップの機会を提供するケースもあります。
そのため、自分に合った職種を選び、スキルを高めていくことが収入向上のポイントになります。
精神・発達障害者の平均賃金
精神障害者の方の平均賃金は、月額約14万9千円(週30時間以上の場合は19万3千円)です(令和5年)。
発達障害者の方の平均賃金は月額約13万円(週30時間以上の場合は15万5千円)となっています(同上)。
精神・発達障害者の方の場合は特に、個々の状態や職務内容によって大きな幅があります。
就職時には、以下のような課題があることが影響しています。
- 職場のストレスや環境の変化に弱い方が多い
- 継続的に働き続けることが難しく、短時間勤務になるケースが多い
- 体調に波があり、フルタイムでの勤務が困難な場合がある
しかし、近年はリモートワークの導入が進み、精神・発達障害者の方でも負担を減らしながら働ける職場が増えてきました。
「自分に合った働き方ができる企業を見つけること」が、安定した収入を得るためのカギになります。
一般雇用との賃金格差の要因
障害者雇用と一般雇用では、賃金に違いがあることが多いです。
その理由として、雇用形態の違い、仕事内容、労働時間など、さまざまな要因が関係しています。
一般雇用では、専門的なスキルが求められる仕事が多く、経験や資格によって給与が上がることが一般的です。
一方、障害者雇用では、体調や障害の特性に配慮した業務が割り当てられることが多いため、職種が限られやすく、給与が比較的低くなる傾向があります。
また、障害者雇用では、フルタイムよりも短時間勤務を選ぶケースが多いため、単純に働く時間が違う分、月収が一般雇用より低くなることがあります。
企業側が「障害者雇用=負担がかかる」と考え、給与を低めに設定している場合もありますが、本来、最低賃金以上の支払いは当然の義務です。
こうした賃金格差の背景を知っておくことで、自分の働き方を考える際の参考になります。
障害者の賃金を決める条件
障害者雇用での賃金は、最低賃金の基準だけでなく、企業の制度や障害特性に応じた配慮によっても決まります。
自分が受け取る賃金がどのように決められているのかを知っておくと、就職や転職の際に安心して働くことができます。
最低賃金の遵守義務
すべての企業は、法律で定められた最低賃金を守る義務があります。
これは、障害の有無に関わらず、働くすべての人が適切な賃金を受け取るための基本的なルールです。
もし、最低賃金を下回る給与を提示された場合は、雇用契約を結ぶ前に企業に確認し、不明な点があればハローワークや労働基準監督署に相談することをおすすめします。
最低賃金の適用対象には例外もあり、例えば「減額の特例許可制度」が適用されるケースもありますが、その場合でも正当な手続きが必要です。
安心して働くためにも、自分が働く地域の最低賃金を事前に確認しておくとよいでしょう。
また、最低賃金水準は、各地域ごとの経済状況や生活費を反映しており、その数値が通常毎年10月に更新される仕組みとなっています。
企業による労働条件や業務内容の違い
企業ごとに労働条件や仕事内容が異なるため、賃金の差も生じます。
たとえば、大手企業では中小企業に比べて障害者向けの職種が多く用意されていたり、キャリアアップの機会があったりすることが多いです。
一方で、中小企業では業務の選択肢が限られ、障害特性に合わせた配慮が十分でない場合もあります。
ただし中小企業の方が業務上関わる相手が少なく、結果として理解が得やすいケースもあります。
また、同じ企業でも職種や責任の重さによって給与が異なるため、事務職と軽作業では給与水準が変わることもあります。
自分のスキルや希望する働き方に合った職場を選ぶことが、納得のいく給与を得るためのポイントになります。
障害特性に応じた配慮の必要性
障害者雇用では、障害の種類や特性に応じた配慮がされることが多く、それが賃金にも影響を与えることがあります。
たとえば、体調管理のためにフレックスタイム制を導入している企業では、働く時間を短くすることができる一方、収入が減る可能性もあります。
また、通勤の負担を考慮し、テレワークを推奨する企業も増えていますが、出社が少ない分、手当が支給されないこともあります。
自分の働き方や生活環境に合わせた職場を選ぶことで、無理なく働きながら安定した収入を得ることができます。
障害者が利用できる経済的支援制度
障害者雇用では、一般雇用よりも賃金が低くなりやすい傾向がありますが、それを補うための支援制度が用意されています。
経済的な負担を減らしながら、安心して働き続けるために活用できる制度を紹介します。
障害年金と手当
障害年金は、障害のある方が生活を支えるために受け取ることができる年金です。
障害の程度によって「障害基礎年金」や「障害厚生年金」の種類があり、受給金額も異なります。
対象となる方は「特別障害者手当」や「障害児福祉手当」を利用するのも良いでしょう。
また、各自治体には上記以外にも、障害の程度に応じた独自の給付金制度が用意されていることもあります。
たとえば東京都には「東京都重度心身障害者手当」があります。
障害の程度や所得によって判定され、受給資格のある方は毎月6万円を受け取ることができます。
こうした手当を活用することで、働きながらも安定した生活を送ることが可能になります。
障害年金の受給条件や支給額は、障害の程度や年齢、就労状況によって細かく定められています。
また障害によっては定期的な審査があり、支給の継続や変更が判断されます。
支給申請や更新の際には、必要な書類や条件を事前に確認し、スムーズに手続きを進めましょう。
自立支援医療制度
自立支援医療制度は、障害のある方が医療を受ける際の負担を軽減するための制度です。
この制度を利用すると、通院や治療にかかる医療費の自己負担が通常3割のところ、1割に軽減されます。
特に、精神障害や発達障害の方で、定期的な診察や服薬が必要な場合には、大きな支援となる制度です。
また、自治体によっては、自立支援医療制度に加えて独自に医療費の補助金を出しているところもあります。
住んでいる地域によって申請方法が異なるため、自治体の福祉課などに問い合わせてみるとよいでしょう。
障害によって通院の必要があり、その病院がお住まいの自治体内にある場合は、病院でも説明してもらえることがあります。
交通機関や公的施設の割引
障害者手帳を持っていると、公共交通機関や公的施設の利用料金が割引される制度があります。
たとえば、電車やバスの運賃が半額になることが多く、毎日の通勤費を節約することができます。
また、美術館や博物館などの施設でも、入場料が無料または割引になるケースがあるため、余暇活動の負担を減らすことができます。
割引を受けるには、窓口で障害者手帳を提示するだけで利用できる場合がほとんどです。
こうした制度をうまく活用することで、生活コストを抑えながら、安定した生活を続けることができます。
障害者の就労・転職支援サービス
障害のある方が安心して働くためには、自分に合った職場を見つけることがとても大切です。
しかし、「どこで仕事を探せばいいの?」「サポートを受けながら仕事を探せる場所はある?」と、不安に感じる方もいるかもしれません。
そんなときに頼れるのが、障害者の就労・転職を支援する機関やサービスです。
ここでは、公的機関や民間の支援サービスについて、それぞれの特徴をわかりやすくご紹介します。
公的機関によるサポート
公的機関では、障害のある方の就職をサポートするために、求人情報の提供や職業相談を行っています。
公的な支援は、信頼性が高く、最新の就業情報が迅速に提供されます。
専門の支援員が相談に乗ってくれるので、就職活動が初めての方やブランクがある方でも安心して利用できます。
また、就職後の職場定着の支援も行っており、長く働き続けるためのサポートが充実しています。
それでは、代表的な公的機関をいくつかご紹介しましょう。
ハローワークの専門窓口
全国のハローワークには、障害者向けの専門窓口が設置されています。
ここでは、障害者雇用の求人を探したり、就職活動のアドバイスを受けたりすることができます。
また、面接対策や応募書類の作成支援も行っており、履歴書や職務経歴書の書き方に不安がある方にもおすすめです。
さらに、「障害者トライアル雇用制度」など、一定期間の試用期間を設けた雇用制度の案内も行っているため、いきなり正社員として働くのが不安な方も、段階的に就職を目指すことができます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークと連携しながら、障害者の職業能力向上や就職支援を行う機関です。
ここでは、個別の相談を通じて、どのような仕事が自分に合っているのかを一緒に考えるサポートが受けられます。
また、企業と連携して、職場実習の機会を提供していることも特徴の一つです。
実際の職場で働く経験を積むことで、自分に合った仕事や職場環境を見極めることができます。
「どんな仕事が向いているのかわからない…」と感じている方は、一度相談してみるとよいでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターでは、就職前のサポートだけでなく、就職後のフォローも行っています。
「職場の人間関係に不安がある」「仕事を続けるうえで体調管理が難しい」といった悩みに対して、相談員が一緒に解決策を考えてくれます。
また、生活面でのサポートも受けられるため、仕事と生活のバランスを取りながら働くことができます。
就職後も安心して働き続けられるよう、定期的に職場を訪問してサポートしてくれることもあり、「長く働き続けたい」と考えている方には心強いサービスです。
民間の就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障害のある方が就職するためのスキルアップをサポートする福祉サービスです。
公的機関と違い、企業で働くための訓練が受けられる点が大きな特徴です。
例として、以下のようなサポートが受けられます。
- ビジネスマナー研修(挨拶や報告・連絡・相談の練習)
- PCスキルの習得(Word・Excelの使い方を学べる)
- 実際の仕事に近い業務訓練(企業と連携した職場実習など)
- 履歴書・職務経歴書の作成支援
- 模擬面接の実施
このように、実際の就職活動をサポートするだけでなく、就職後に必要なスキルを身につけることができます。
また、職場実習を通じて、企業とのマッチングを図ることも可能です。
「いきなり働くのは不安…」「就職するために準備をしたい」という方は、就労移行支援事業所の利用を検討してみるとよいでしょう。
障害者雇用に特化した転職エージェント・サイト
障害者雇用に特化した転職エージェントや求人サイトもあります。
これらのサービスを利用することで、希望する条件に合った求人を探しやすくなるだけでなく、専門のアドバイザーに相談しながら就職活動を進めることができます。
特に、以下のようなサポートが充実しています。
- 障害者雇用の専門コンサルタントによる就職相談
- 企業とのマッチングサポート
- 障害者向けの適性検査やカウンセリング
- 面接の調整や応募書類の添削
また、障害者向けの合同企業説明会やオンラインセミナーを開催しているサイトもあり、さまざまな情報を収集することができます。
就職活動をスムーズに進めるためにも、こうしたサービスを積極的に活用してみるとよいでしょう。
スグJOBの活用をおすすめ!
「スグJOB」は、障害者雇用に特化した求人サイトで、多くの企業の障害者向け求人を掲載しています。
希望する働き方に合った求人を検索できるだけでなく、専門スタッフによるサポートも充実しているのが特徴です。
- 障害の特性に合わせた求人検索が可能
- 採用実績のある企業の求人が多いため、安心して応募できる
- 面接時のサポートや企業への交渉も可能
障害者雇用に特化した転職サイトを活用することで、自分に合った職場を見つけやすくなります。
スムーズな転職活動を進めるために、ぜひ「スグJOB」をチェックしてみてください。
まとめ
障害者雇用における最低賃金の仕組みや、一般雇用との違いについて詳しく解説しました。
最低賃金は法律で定められており、企業は必ず守らなければならないルールですが、地域や業種によって違いがあるため、事前に確認することが大切です。
また、障害者雇用では、労働時間や仕事内容に応じて賃金が決まるため、自分の希望する働き方に合った職場を選ぶことがポイントになります。
さらに、障害年金や自立支援医療制度など、経済的な負担を軽減するための支援制度も活用しながら、無理なく働き続けることが大切です。
今回ご紹介した内容を参考に、納得のいく働き方を見つけ、安心して就職や転職を進めてください。
あなたにぴったりの職場が見つかることを、心から願っています。