障がい者雇用での契約社員の現状と正社員との相違点
障がい者の雇用拡充は、日本の社会や経済にとって重要な課題となっています。
日本の企業は障がい者雇用の法的義務を果たすため積極的に採用活動を行っていますが、実際に働く障がい者の多くは契約社員としての立場で雇用されています。
正社員とは異なる雇用契約には、労働期間、給与体系、福利厚生などの面で大きな違いがあり、こうした点が障がい者の働きやすさやキャリア形成に影響を与えます。
障がい者雇用における契約社員の現状、契約社員と正社員の違い、またそれぞれの利点や課題について詳しく解説します。
契約社員の定義
有期雇用契約の概要
契約社員とは、労働契約期間が一定期間に限定されている「有期雇用契約」のもとで働く社員を指します。
有期雇用契約は、業務に必要な期間のみ労働力を確保したい企業と、特定の仕事をしたい労働者の双方のニーズに応えます。
例えば、特定のプロジェクトやシーズンのみ必要な人材の確保、また正社員の欠員補充などで一時的に労働力を補いたい場合に利用されます。
障がい者雇用においては、まず契約社員として採用することで、企業が障がい者の特性や適応を確認できるため、契約社員での雇用が広く用いられる傾向にあります。
契約期間終了後は再契約の有無を決定する形で雇用を調整でき、企業にとっても柔軟な人材管理が可能です。
有期雇用契約をめぐる法改正
有期契約者の労働環境改善を目的に、日本では2013年に労働契約法が改正され、有期契約者の雇用安定性が法的に強化されました。
障がい者も含め、有期契約で働く労働者が、同一企業で通算5年以上勤務した場合、無期雇用に転換することができる権利が付与され、企業はこれに応じなければなりません。
この制度により、障がい者のような立場が不安定になりがちな契約社員にも長期的な雇用安定が図れるようになりました。
さらに、雇止めに関するルールも設けられ、企業側が一方的に雇用終了を通告することができなくなり、労働者の権利が守られるようになっています。
無期雇用契約への切り替え
契約社員が同一の職場で5年以上働いた場合、本人の希望があれば無期雇用契約に転換できる制度が労働契約法で定められています。
この制度により、契約社員として働き続けている障がい者も、雇用期間の定めがない「無期雇用契約」に転換できるため、契約終了による離職リスクを回避でき、長期的な雇用が可能になります。
無期雇用への転換制度は、安定した雇用を求める障がい者にとっても有効な手段となり得ます。
契約終了の不安が軽減されることから、障がい者のキャリア形成を促進し、仕事への意欲も高まる効果が期待できます。
雇止め法理の法制化
雇止めとは、有期雇用契約における契約期間の終了に伴い、企業側が契約を更新せず、労働者との雇用関係を終了させることです。
しかし、長期間にわたり同じ企業で働く契約社員にとっては、突然の雇止めは生活や収入に重大な影響を与えます。
これを防ぐため、労働契約法の改正により、雇止めを行う際には企業に正当な理由が必要とされるようになりました。
これにより、障がい者雇用においても契約終了による急な離職のリスクが軽減され、労働者が安定して働ける環境が整いつつあります。
障がい者にとっても、就業の継続がしやすくなり、生活設計が立てやすくなることが期待されています。
不当な労働条件の禁止
労働契約法と労働基準法では、不当に劣悪な労働条件を課すことが禁止されています。
障がい者雇用においても、障がいを理由に労働条件を低く設定することは法律違反となります。
企業は障がい者であるか否かに関わらず、適正かつ公平な条件での雇用を提供する義務を負っています。
不当な労働条件が設定された場合、労働者は法的手段を通じて救済を求めることが可能です。
障がい者の就業環境改善のためには、企業が平等な雇用環境を提供することが不可欠です。
障がい者の特性に応じた柔軟な配慮が求められ、労働条件や業務内容が不公平なものとならないよう、適切な環境を整えることが重要です。
転職活動を始めるなら……?
障がい者が転職を考える際、自己負担を軽減するために、公共サービスや民間の障がい者支援機関を利用することが推奨されます。
たとえば、ハローワークや地域障害者職業センターでは、障がいに関する知識がある担当者がサポートし、企業の紹介や面接対策、履歴書作成支援など、さまざまな支援が提供されます。
さらに、障がい者雇用に特化した民間の求人サイトもあり、例えば「スグJOB」などは障がい者を積極的に採用する企業の求人を掲載しています。
これらの支援機関を活用することで、障がい者が安心して働ける職場を見つけやすくなり、適性に合った環境で働ける可能性が広がります。
契約社員と正社員の相違点
雇用期間の定めの有無
正社員の雇用契約は無期雇用契約が一般的であるため、企業との雇用関係が長期的に維持されることが多く、安定した働き方が保証されます。
契約社員の場合は、契約期間が限定されていることが通常であり、たとえば3ヶ月、6ヶ月、1年といった短い期間での契約が多く見られます。
契約期間が終了すれば再契約が必要となり、企業側から契約を更新しないと判断されると契約満了で雇用関係が終了します。
障がい者にとっては、雇用期間が限定されることが将来的な不安要素となりやすく、安定した生活設計が難しいと感じることがあります。
給与・賞与(ボーナス)
正社員は一般的に年収が固定され、賞与(ボーナス)や各種手当が支給されることが多いです。
一方、契約社員は月給や時給が基本で、賞与が支給されないケースが多く見られます。
賞与の有無は、年間の収入に大きく影響するため、特に障がい者にとっては生活設計に大きな違いをもたらします。
正社員であれば、企業の業績に応じたボーナスが支給されるため収入の変動が少なく、経済的に安定した生活が送りやすいという利点があります。
しかし、契約社員の場合、賞与がないことも多く、時給制の場合には労働時間の変動が収入に直接影響するため、収入の不安定さが生じやすくなります。
障がい者にとっては、収入が安定しないことが生活全般に影響を与え、特に医療費や福祉サービスの負担が大きい場合はさらに負担が増す可能性もあります。
退職金制度
退職金は、長期間勤務した正社員が退職する際に支給される場合が多く、企業の福利厚生として位置付けられています。
正社員であれば、一定の勤続年数を超えた時点で退職金制度の対象となり、将来的な資金を蓄える一助となりますが、契約社員には退職金制度が適用されない場合がほとんどです。
退職金がないことで、契約社員の将来的な生活設計は難しくなりやすく、特に障がい者の場合、退職後の生活費や医療費に備えたいと考える人も多いため、退職金の有無が重要な要素となります。
契約社員として働く場合は、老後や退職後の生活を見据えた貯金が必要となり、自己管理が求められます。
福利厚生の内容
企業は正社員に対してさまざまな福利厚生を提供し、健康保険や厚生年金、企業独自の福利厚生制度などが用意されるのが一般的です。
これに対し、契約社員には福利厚生の範囲が制限される場合が多く、基本的な健康保険や年金はありますが、その他の手厚い福利厚生は適用されないことがあります。
障がい者の場合、医療やリハビリが必要なケースも多く、福利厚生の内容が自身の健康管理や生活設計に直接影響することもあります。
そのため、障がい者が契約社員として働く場合は、福利厚生の内容を事前に確認し、必要なサポートが受けられるかを把握することが重要です。
企業によっては契約社員でも正社員と同等の福利厚生を提供するところもあるため、企業の選択が働きやすさに大きく影響します。
障がい者雇用で契約社員が多い背景
障がい者雇用の9割近くが契約社員
障がい者雇用の約9割が契約社員である現状は、厚生労働省の統計でも明らかにされています。
これは、日本の多くの企業がまず契約社員として障がい者を採用し、業務への適応状況や職場での適応度を見ながら、長期雇用を検討する形を取る傾向が強いためです。
契約社員は企業にとって、正社員として採用する前段階として試用的な雇用形態とみなされる場合があり、企業側にとっても柔軟に労働力を確保できるため、障がい者雇用において契約社員の割合が増えています。
また、契約社員としてまず雇用することで、企業は障がい者が業務にどれだけ適応できるかを見極めやすく、実際の業務負担や労働条件の調整がしやすくなります。
これにより、企業も障がい者の働きやすさを考慮した上で採用や雇用継続の判断が可能になります。
正社員雇用が少ない主な原因は離職率の高さ
障がい者雇用における正社員比率が低い理由として、離職率の高さが挙げられます。
特に障がい者の場合、業務が自分に合わないと感じた場合や、企業が十分な配慮を行えなかった場合に離職する傾向が見られます。
また、障がいに応じたサポートが不足している職場では、仕事を続けることが難しい場合もあり、結果として定着率が低くなります。
企業側にとって、正社員として雇用し教育訓練を行った後で離職されることはリスクが高いため、まずは契約社員としての採用を選ぶことが多いです。
障がい者が職場に適応し、一定期間の契約が終了した時点で、職場に定着できる見込みが立った場合には正社員への登用が検討されることもあります。
このような形で、契約社員としての雇用が障がい者の職場適応を見極めるステップとして活用されています。
【障害種別】就職後の定着率
障がい者の雇用状況において、障がいの種類や特性により、就職後の定着率に違いが見られます。
例えば、身体障がい者の定着率は比較的高い傾向がありますが、知的障がいや精神障がいを持つ方の場合、企業が十分な支援体制を整えていないと、定着が難しくなることが多いです。
特に精神障がい者は体調の変動が激しいため、サポート体制がない職場では継続して働くことが困難になることがあります。
定着率が低い場合、企業側も正社員として雇用することに不安を抱きやすく、まずは契約社員として雇用して職場適応を確認する形を取ることが多くなります。
このため、障がい者の雇用では、障がいの特性に合わせた配慮が必要であり、障がい者の方も自分に合ったサポート体制がある企業を選ぶことが望ましいです。
契約社員と正社員の長所・短所の比較
契約社員の長所
ワークライフバランスの取りやすさ
契約社員は通常、業務内容が明確に定められており、必要以上の残業や仕事の範囲拡大が発生しにくい点が特徴です。
ワークライフバランスが保たれやすく、障がい者にとっても働きやすい環境が整えやすくなります。
また、契約期間も比較的短期間であるため、もしも業務が自分に合わないと感じた場合でも、契約更新を行わずに別の職場を探すことも可能です。
障がい者にとって、柔軟に仕事を変えられることは働きやすさにつながり、仕事と生活のバランスが取りやすい環境を選択できるというメリットがあります。
決められた業務に専念できる
契約社員は、特定の業務やプロジェクトに専念できるため、他の業務や部署間の調整といった広範な業務を任されることが少なくなります。
障がい者にとっては、業務範囲が限定されることで、負担が軽減され、自分のペースで業務に取り組むことが可能になります。
特に障がいのある方にとって、得意な分野に集中できる環境は精神的な負担の軽減にもつながり、業務に対するプレッシャーが少なくなるため、より安定して働けるというメリットが期待されます。
自分に合った職場や仕事を探せる
契約社員は有期雇用であるため、契約期間が終了した場合、新たな職場で働く選択肢が残されている点も利点です。
障がい者にとっても、転職によってより適性に合った職場や仕事を見つける機会が得られます。
複数の職場で経験を積むことで、職場選びの基準や自己理解が深まり、最適な労働環境を見つけやすくなります。
また、障がい者雇用において、様々な職場を経験することで、働きやすさや支援体制の充実度を比較できるため、結果的に長く働ける職場を見つけやすくなるというメリットがあります。
正社員の長所
長期的なキャリアの安定
正社員は無期雇用であるため、長期的なキャリア形成が可能です。
また、企業内での昇進や昇給、部署異動なども経験でき、スキルアップやキャリアの幅を広げる機会が得られます。
障がい者にとっても、正社員であれば安定した収入を得ながら仕事に集中できるため、生活の基盤が整えやすくなり、精神的にも安定した状態で働けるメリットがあります。
企業側も長期的な人材育成を行うため、障がい者がスキルを磨きながらキャリアを積むことが可能です。
契約社員の短所
契約社員は、契約終了時に職を失うリスクが常に伴い、また賞与や退職金が支給されない場合も多いため、経済的な安定が図りにくい点がデメリットです。
特に障がい者にとっては、収入の不安定さが生活全般に影響を与えることもあります。
医療費や福祉サービスの利用などで負担が生じやすい障がい者にとって、収入の安定性は重要な要素であるため、契約社員としての不安定な雇用形態が不安要素となることがあります。
正社員の短所
正社員は、広範な業務や責任が求められる場合が多く、障がい者にとっては負担になることもあります。
さらに、業務範囲が広がると、過重労働やストレスの増加につながる可能性があるため、適性や体調とのバランスが重要です。
特に、正社員としての安定を求めつつも、業務の内容や求められる責任が自身の体調や障がいの特性に合っているかを慎重に見極めることが大切です。
契約社員として働く際に確認しておきたい点
労働条件通知書の内容
契約社員として働く際は、労働条件通知書に明記された雇用条件を確認することが重要です。
契約期間や就業条件、給与や残業の有無などが記載されているため、特に障がい者の方にとって、自身の特性に合った環境が整っているかを事前に把握することが大切です。
給与の支払い方法
契約社員の場合、給与は時給制や日給制が多く、正社員と異なり、月給制ではないケースが一般的です。
支払われる給与が勤務時間や日数に依存するため、働く日数や時間が少ないと収入も減少するリスクがあります。
障がい者にとっては、医療費や福祉サービスの利用が必要になることも多く、収入の安定性は生活設計に大きく影響します。
給与の支払い方法や頻度を事前に確認することで、安定した生活費を確保しやすくなります。
また、企業によっては時給制でも一定の収入保障が設けられている場合もあるため、勤務前に詳しい説明を求めることが望ましいでしょう。
休日の取得
休日や有給休暇の取得条件も、雇用形態により異なる場合があります。
契約社員の場合、休日は契約内容に準じるため、正社員と異なり、有給休暇が取得できない場合や、取得可能日数が少ない場合もあります。
障がい者にとっては、通院やリハビリ、体調管理のために休みを取得しやすい環境が重要です。
契約前に休日取得の条件をしっかりと確認し、自身の生活スタイルや体調管理がしやすい働き方であるかを確認することが大切です。
また、就労移行支援施設を利用することで、体調を見ながら柔軟に休暇が取れる職場を探すサポートが受けられます。
労働時間と残業の扱い
契約社員の場合、労働時間や残業の扱いも正社員とは異なることが多いです。
契約社員の労働時間は契約内容に従うため、正社員より短時間であることが一般的です。
また、残業は基本的に求められない場合が多く、あった場合でも契約内容で規定されています。
障がい者にとって、体調や障がいの特性に合った勤務時間の設定は、安定して働き続けるために重要です。
事前に労働時間や残業の有無を確認し、自身の働ける時間帯や負担の少ない勤務形態を選ぶことが大切です。
また、残業が発生する場合の賃金が適切に支払われるかも、確認しておくべきポイントです。
障害をお持ちの方が就職活動時に利用できる支援サービス
ハローワーク
ハローワークは、全国各地にある公共の職業紹介所で、障がい者のための就労支援も提供しています。
障がい者専用の求人窓口が設置されている地域もあり、専門の職業相談員が対応するため、障がいに関する相談も気軽に行えます。
また、障がい者雇用に積極的な企業の紹介、履歴書作成や面接対策のアドバイス、雇用後のフォローアップも行われているため、就職活動時の負担を軽減することができます。
ハローワークの利用は無料で、障がい者に理解のある企業と出会うための第一歩として役立ちます。
障がい者雇用に特化した「障害者求人コーナー」なども設置されているため、積極的に活用すると良いでしょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障がい者に対して職業リハビリテーションや就業準備支援を提供する機関です。
ここでは、障がいに応じた就業支援を受けられるため、職場環境に適応しやすく、仕事に必要なスキルや心構えを学ぶことができます。
就職が決まった後も、定着支援として定期的な面談や、職場での困りごとに関する相談が可能で、職場への定着を支援します。
地域障害者職業センターは、企業側とも連携し、障がい者が職場で適切なサポートを受けられるよう調整を行っているため、職場環境に適応しやすい支援が提供されています。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障がい者に対して、就職活動を支援する施設です。
利用者は、事業所内で職業訓練やコミュニケーションスキルの向上、面接対策などを受けることができ、企業への実習や職場体験も提供されるため、実際の職場環境に慣れる準備が整えられます。
就労移行支援事業所では、体調に合わせて無理のないペースで就職準備が進められるため、障がい者の方でも自身の特性に応じたペースでスキルを身につけやすい環境が整っています。
また、就職が決まった後も、職場定着の支援が続くため、安心して就労を開始することができます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がい者の生活支援と就業支援を同時に提供する機関です。
ここでは、日常生活での困りごとや、職場での人間関係に関する相談も受け付けており、生活と仕事の両方が安定するようなサポートが提供されます。
障がい者が安心して働き続けるためには、職場だけでなく日常生活の安定も重要な要素です。
生活支援を行いながら就労支援を受けることで、職場での困難を生活面からもバックアップし、長期的に働き続けることができるようサポートしています。
仕事と生活の両立を支援することで、より安定した働き方が実現しやすくなります。
障害者雇用に強い求人サイト
障がい者雇用に特化した求人サイトを活用することで、障がい者の雇用を積極的に進める企業に応募しやすくなります。
たとえば「スグJOB」などの求人サイトでは、障がい者を支援する企業の求人情報を提供しており、障がい者に対する理解がある職場に出会える可能性が高まります。
こうした専門求人サイトは、企業のサポート体制や障がい者向けの業務内容が明示されていることが多く、自分に合った仕事を見つけやすくなります。
障がい者向けの求人サイトでは、スキルや経験、職場環境の希望に合わせて企業を検索することができ、転職やキャリアアップを目指す場合にも有効です。
まとめ
障がい者雇用における契約社員と正社員の違いには、雇用期間や給与、福利厚生の面で多くの差があります。
契約社員は柔軟で働きやすい反面、収入や安定性に課題がある一方、正社員は手厚い福利厚生が得られるものの業務負担が増す可能性もあります。
障がい者の方が働きやすい環境を見つけるには、支援サービスや求人サイトを活用し、自分に合った職場や働き方を見極めることが重要です。