障害者雇用の離職率と定着率の実態と改善策
上昇する法定雇用率に伴い、近年、障害者雇用に取り組む企業が増えています。
その中で「雇用したものの長続きしない」「どうすれば定着率を高められるのかわからない」といったお悩みを抱える企業も少なくありません。
障害のある方が安心して長く働き続けるためには、職場環境や業務の進め方に工夫が必要です。
一方で、企業側も「どこまで配慮すればよいのか」「どのようにサポートすれば仕事を続けやすくなるのか」といった疑問を持つことが多いでしょう。
この課題を解決するためには、まず現状を正しく把握し、実践的な改善策を講じる必要があります。
本記事では、障害者雇用の離職率と定着率の実態を分かりやすく解説し、企業が取り組むべき具体的な改善策をご紹介します。
「障害者が長く安心して働ける職場づくり」を目指し、ぜひ参考にしてみてください。
障害者雇用における離職率の現状
障害のある方が職場で長く活躍するためには、働く環境や業務内容が適切であることが大切です。
しかし、実際には、業種や企業規模、障害の種類によって、離職率や定着率には大きな差があるのが現状です。
企業が適切な採用戦略を立て、働きやすい環境を整備するためには、まずこれらの要因がどのように影響しているのかを正しく理解することが重要になってきます。
業種別の離職率・定着率
障害者雇用の従業員の定着率が高い業界として、医療・福祉業界や生活関連サービス業があげられます。
これは、職場内で障害者に対する理解が進んでおり、その結果サポート体制が整っていることが影響していると考えられます。
一方で、宿泊・飲食業界や建設業界では離職率が高くなる傾向があります。
この理由としては、
- 体力的な負担が大きい(長時間の立ち仕事や重労働が必要な場合が多い)
- 職場環境の変化が激しい(シフト制や繁忙期と閑散期の差が大きい)
- 障害者に合わせた業務設計が十分に行われていない
といった点が挙げられます。
あくまでも業界の傾向としてですが、職場全体が健常者を前提とした作りになっており、障害のある従業員を受け入れる土壌が整備されていない企業が多いと言えます。
こうした企業が障害者雇用を進める際には、業種ごとの特性を理解し、働きやすい環境づくりを意識することが重要です。
企業規模別の離職率・定着率
企業の規模によっても、障害者雇用の定着率には差が見られます。
一般的に、大企業よりも中小企業の方が障害者の定着が課題となることが多いです。
その理由として、
- サポート体制が十分に整っていない(支援スタッフを常駐させられない、業務の調整が難しい)
- 職場のバリアフリー化が進んでいない(物理的な設備が不十分)
- 障害者雇用に関するノウハウが不足している(合理的配慮の提供方法が分からない)
といった点が挙げられます。
一方で、大企業では専門の支援チームを設置しているケースも多く、障害者が働きやすい環境づくりが進んでいるため、定着率が高い傾向にあります。
ただし、大企業であっても、
- 業務内容のミスマッチ(採用時に適性を十分に考慮できていない)
- 職場環境の調整不足(他の社員との関係性や仕事の割り当てが適切でない)
といった問題があると、障害者の離職につながる可能性があります。
企業は、自社の規模に応じたサポート体制を確立し、障害者が長く働ける環境を整えることが求められます。
障害種類別の離職率・定着率
障害の種類によっても、定着率には大きな違いがあります。
障害者職業総合センター(https://www.nivr.jeed.go.jp/)の調査によると、就職後1年時点の定着率は以下の通りです。
障害の種類 | 1年後の定着率 |
身体障害 | 60.8% |
知的障害 | 68.0% |
精神障害 | 49.3% |
発達障害 | 71.5% |
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機|「障害者の就業状況等に関する調査研究」|https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000nub-att/houkoku137.pdf
特に、精神障害を持つ方の定着率が低いことが大きな課題となっています。
精神障害のある方は、
- 職場の人間関係にストレスを感じやすい
- 業務のプレッシャーが体調に影響しやすい
- 定期的な通院や休息が必要になる場合がある
といった特性があるため、適切な配慮がないと離職につながるリスクが高まります。
一方で、発達障害を持つ方の定着率が比較的高いのは、適切な業務環境を提供することで、その能力を最大限に活かせるケースが多いためです。
企業が障害者の定着率を向上させるためには、
- 障害の特性を正しく理解する
- 個々の適性に合った業務を割り当てる
- 柔軟な働き方を取り入れる
といった対応が重要です。
企業が業種や規模、障害の種類ごとの特徴を理解し、適切な雇用環境を整えることで、障害者の離職を防ぐことができます。
次の章では、障害者が離職する主な理由を詳しく見ていきましょう。
障害者が離職する主な理由
企業は障害のある方を雇用した際、さまざまな配慮を行い、離職防止に努めています。
ですが、現実には離職してしまうケースが少なくありません。
企業としては、その背景をしっかり理解し、適切な対応を行うことで、障害のある方が働きやすい環境を整えることが求められます。
離職の原因を分析し、働きやすい職場をつくることは、企業の人材確保や生産性向上にもつながります。
ここでは、障害者雇用に多い離職理由について、障害の種類ごとに詳しく見ていきましょう。
身体障害者の離職理由と不満点
身体障害を持つ方が職場を離れる理由として、職場の設備や環境、業務負担、周囲の理解度、待遇などが大きく影響します。
離職理由 | 詳細 |
職場の雰囲気・人間関係が合わない | 障害に対する理解が不足していると、無意識の偏見や適切でない対応がストレスの原因になります。例えば、車椅子の方が通りにくい通路があったり、配慮のない発言が続いたりすると、職場に居づらさを感じることがあります。 |
賃金・労働条件への不満 | 期待していた給与と実際の収入にギャップがあると、不満が高まります。特に、一般雇用と比較して賃金が低い場合、モチベーションの低下につながることがあります。 |
仕事内容が合わない | 採用時に業務内容が十分に説明されていないと、「思っていた仕事と違う」と感じることがあります。体に負担がかかる作業や、設備が整っていない環境では、業務が難しくなり、離職の原因となります。 |
一般の労働者の離職理由とも共通する部分がありますが、環境については障害のある方の中でも個々人で必要なものが違います。
いかに1人1人の要望を聞き取り、可能な範囲で応えられるかが鍵となるでしょう。
企業側は、職場のバリアフリー化、業務内容の事前説明の徹底、人間関係のサポートなどを積極的に行うことで、障害のある方の離職を防ぐことができます。
精神障害者の離職理由と不満点
精神障害を持つ方は、ストレス管理や職場環境が安定しているかどうかが定着に大きく影響します。
主な離職理由 | 詳細 |
職場の雰囲気・人間関係が合わない | 精神的な特性から、周囲とのコミュニケーションに課題を抱えることがあり、理解が得られないとストレスが大きくなります。曖昧な指示が多い職場や、マルチタスクを求められる環境では、不安を感じやすくなります。 |
賃金・労働条件への不満 | 精神的負担を考慮せず、過度なプレッシャーがかかる仕事を担当すると、負担が大きくなります。さらに、収入面で将来の不安を抱えることが離職の要因になることもあります。 |
仕事内容が合わない | 環境の変化に適応するのが苦手な方や、プレッシャーを受けやすい方にとって、仕事内容が適切でないと大きな負担になります。例えば、対人業務が多い職場では、極度の緊張が続き、疲弊してしまうことがあります。 |
体調不良や症状の悪化 | ストレスが過度にかかると、病状が悪化し、勤務継続が難しくなることがあります。特に、勤務時間が長すぎたり、休憩を取りにくい職場では、体調管理が難しくなります。 |
精神障害を持つ方が安心して働くためには、業務量の調整、定期的な面談、柔軟な勤務体制の導入が必要となるでしょう。
もちろん個々の症状や特性によって必要な体制は違いますので、企業は自社の状況に応じた業務設計やサポートを行い、無理のない環境を整えることが大切です。
企業の実態と障害者が抱える不満
障害者が離職する背景には、企業側の理解不足や支援の不足が大きく関わっていることがあります。
よく見られるのは、以下のような場面です。
- 合理的配慮の欠如:適切な設備や柔軟な勤務形態が提供されていない。
- コミュニケーション不足:業務の指示が曖昧であったり、障害に関する相談ができる環境が整っていない。
- キャリア形成の機会不足:昇進や昇給のチャンスが少なく、働く意欲が低下してしまう。
これらの問題を解決するために、企業は障害者の声を積極的に聞き、職場の仕組みを改善することが大切です。
例えば、
- 職場のバリアフリー環境を整備する(エレベーターや手すりの設置、車椅子対応のデスクなど)
- 障害理解研修を実施する(上司や同僚が障害特性を理解し、適切に対応できるようにする)
- 働き方の柔軟性を確保する(リモートワーク、時短勤務、フレックスタイム制の導入)
こうした取り組みを行うことで、障害のある方が安心して働ける職場をつくることができます。
企業の雇用の安定化には、障害のある方にとって快適な環境を整え、適切なサポートを提供することが不可欠です。
次の章では、企業が障害者雇用の定着率を向上させるための、具体的な方法を詳しく解説します。
企業が障害者雇用の定着率を向上させる方法
障害者の定着率を向上させるためには、企業が積極的に支援体制を整え、働きやすい職場環境を作ることが必要です。
職場の理解を深め、適切な配慮を提供することで、障害のある方だけでなく、すべての従業員が安心して長く働ける環境が生まれます。
ここでは、定着率向上に役立つ具体的な方法について解説します。
障害者とのコミュニケーションの強化
定期的な面談の実施
障害者が職場に定着するためには、継続的なコミュニケーションが欠かせません。
定期的な個別面談を行い、業務内容や職場環境に関する意見を聞くことで、トラブルの早期発見・対応が可能になります。
特に、業務の適性や負担について、本人と相談しながら調整することで、ミスマッチを防ぐことができます。
職場の理解を深めるための研修
障害者が働きやすい職場環境を作るには、周囲の理解も重要です。
社員向けに障害特性に関する研修を実施し、適切なサポート方法を学ぶ機会を提供することで、障害者に対する偏見や誤解をなくし、円滑な職場環境を作ることができます。
研修の内容例:
- 障害特性の基礎知識(身体・知的・精神・発達障害の違い)
- 障害者と接する際のコミュニケーションのポイント
- 職場で提供できる合理的配慮の具体例
相談窓口の設置
障害者が職場で抱える悩みや不安を気軽に相談できる専用の相談窓口を設置することも効果的です。
障害のある社員が安心して相談できる環境を整えることで、精神的な負担を軽減し、働き続けやすくなります。
例えば、相談窓口には以下のようなサポート体制を整えるとよいでしょう。
- 専任の担当者を配置し、障害特性に配慮した対応を行う
- 匿名での相談も受け付け、安心して悩みを打ち明けられる環境を作る
- 外部の専門家(カウンセラーやジョブコーチ)と連携し、実践的なサポートを提供する
支援機関との連携を図る
ジョブコーチの活用
ジョブコーチとは、障害者の職場適応をサポートする専門家です。
企業と障害者の間に立ち、業務の調整や職場環境の整備を支援します。
ジョブコーチの利用には、
- 障害者が職場環境にスムーズに適応できる
- 企業側の負担が軽減される
- 長期的な雇用継続が期待できる
といったメリットがあります。
ジョブコーチの支援を受ける際は、ハローワークや障害者就業・生活支援センターに相談してみるとよいでしょう。
障害者就業・生活支援センターの利用
障害者の就労支援を行う公的機関である障害者就業・生活支援センターと連携することも、定着支援や職場環境の改善に役立ちます。
- 職場定着支援(仕事に適応するためのアドバイス)
- 生活面のサポート(通勤や健康管理に関する相談)
- 企業向けの研修・アドバイス(合理的配慮の提供方法など)
主に上記のような支援を受けることができます。
医療機関との協力
特定の難病を抱える方や、精神障害のある方の場合、職場環境の調整や体調管理が非常に重要になります。
そのため、主治医やカウンセラーと連携し、業務負担を適切に調整することが必要です。
例えば、
- 服薬の影響を考慮し、適切な勤務時間を設定する
- ストレスが少ない業務への配置を検討する
- 定期的な健康チェックを実施し、体調の変化に対応する
こうした医療機関との連携を進めることで、障害者が無理なく働き続けられる環境を作ることができます。
企業の誤解と「定着」「活躍」の違いを理解する
定着=継続的な雇用ではない
本当の定着とは、単に雇用を継続することではなく、障害者が「働きがい」を持って活躍できる環境を整えることです。
企業が行うべきことは、
- 仕事のやりがいを提供する
- キャリア形成の機会を設ける
- 業務の評価制度を整える
といった、長期的に成長できる環境づくりです。
活躍を促す施策の導入
障害者の能力を最大限に引き出すためには、
- スキルアップ研修(業務に必要なスキルを習得できる機会の提供)
- キャリア支援(昇進・昇給の制度を整える)
- 業務の選択肢を広げる(適性に応じた多様な業務を用意する)
といった施策が効果的です。
障害者が「働く意欲」を持ち、長期的に成長できる環境を提供することで、企業にとっても貴重な人材の定着につながります。
障害者雇用の成功事例と採用時の注意点
障害者雇用に成功している企業の事例を学ぶことで、定着率の向上や働きやすい環境づくりのヒントを得ることができます。
障害者の適性に合った職務設計や、採用時の配慮をしっかり行うことで、企業にとっても貴重な戦力として長く働いてもらうことが可能になります。
採用の際に気を付けるポイント
適切な職務設計
採用時には、障害者の特性に合った業務を割り当てることが重要です。
適切な業務マッチングができていないと、負担が大きくなり、早期離職につながる可能性があります。
以下のような点を考慮しながら、職務を設計するとよいでしょう。
- 業務内容の明確化:作業手順や期待される成果を具体的に示す。
- 作業環境の調整:身体的・精神的な負担を考慮し、必要に応じて設備を整える。
- サポート体制の整備:上司や同僚が適切なフォローをできるよう、事前に準備をする。
これらを徹底することで、障害者が安心して働ける環境を作ることができます。
面接時の配慮
面接は、企業と障害者双方がマッチングを確認するタイミングです。
職務内容や職場環境について、具体的に説明し、障害のある方が自身に合った仕事かどうか判断できるようにすることが重要です。
- 業務の詳細を説明する(業務の一日の流れや求められるスキルを伝える)
- 必要な配慮について質問する(休憩時間、通院の必要性、作業環境の調整など)
- 採用後の支援体制を説明する(ジョブコーチの活用、社内サポート体制など)
適切な情報提供を行うことで、ミスマッチを防ぎ、長期的な雇用の実現につながります。
障害者の志向を考慮する
働きやすい環境づくり
障害者の志向に合わせた職場環境を整えることで、離職を防ぎ、長期的に働き続けてもらうことができます。
例えば、
- 時短勤務やフレックスタイムの導入:障害特性に合わせて柔軟な働き方を提供する。
- 在宅勤務の選択肢を増やす:通勤の負担を軽減し、集中できる環境で業務を進める。
- 作業スペースの調整:静かな環境で働けるよう、個室やパーテーションを活用する。
これらの対策は障害のある方だけでなく、一般の従業員にもメリットがあります。
こうした取り組みを行うことで、障害者が快適に働ける環境を提供できます。
モチベーションを高める工夫
障害のある従業員のやる気を引き出すために、評価制度を見直し、適切なフィードバックを行うことが重要です。
- 業務の成果を適切に評価する(障害の有無に関係なく、公正な基準を設ける)
- 定期的なフィードバックを行う(できるだけポジティブなフィードバックを重視する)
- キャリアパスの選択肢を示す(昇進やスキルアップの機会を提供する)
これらの施策を取り入れることで、障害者が「ここで働き続けたい」と思える職場づくりにつながるでしょう。
まとめ
障害者雇用の離職率の高さは、多くの企業が直面している課題です。
ですが、適切な対策を講じることで、定着率の向上は十分に可能です。
そのためには、まず障害のある従業員との円滑なコミュニケーションを強化し、現場の理解を深めることが大切です。
また、支援機関との連携を強化し、企業だけでなく、外部の専門家の力も活用しながら、個々の障害に応じた働きやすい環境を整備することが求められます。
さらに、障害者雇用を成功させるためには、「定着」ではなく「活躍」を目指す視点が重要です。
単に雇用を維持するだけでなく、障害者が持つスキルや能力を最大限に活かし、組織に貢献できる環境を整えることが、企業と障害者双方にとって大きなメリットになります。
また、職場環境を整えることで、障害の有無に関係なく、すべての従業員の働きやすさへとつながっていきます。
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この記事の内容が、障害者雇用の改善のお役に立てれば幸いです。