障害者の失業保険(雇用保険)について知っておくべきこと
障害を持つ方が仕事を失ったとき、生活を支える手段のひとつが、失業後にハローワークで手続きをすることでもらえる生活保障の給付、いわゆる「失業保険」です。
「雇用保険」の制度の1つであり、公式な名称は「雇用保険の基本手当」といいます。
しかし、その仕組みや手続きは少し複雑で、「どのような条件で受給できるのか」「必要な書類は何か」など、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
仕事を失うと、収入が途絶えることで生活への不安が大きくなります。
特に、障害を持つ方にとっては、次の仕事を探すまでの期間が長くなることもあり、十分な備えが必要です。
本記事では、障害者の方が失業保険を受け取るために必要な条件や手続きの流れを、わかりやすくご紹介します。
また、失業中の健康保険や年金の取り扱い、再就職を支援する制度についても詳しく解説します。
「手続きを進めるには、まず何をすればいいの?」と迷ったときに、この記事が参考になれば幸いです。
しっかりと準備をして、スムーズに制度を活用できるようにしましょう。
(この記事では、より一般的に浸透している「失業保険」で記述を統一いたします。)
失業保険(雇用保険)の概要
仕事をしているときは意識することが少ないかもしれませんが、万が一の失業に備える制度として失業保険(雇用保険)があります。
雇用保険は公的保険制度の1つですが、雇用保険の制度の1つに、「失業等給付」というものがあります。
この制度は、仕事を失ったときの経済的な支えとなるだけでなく、次の職を見つけるための支援も提供されます。
特に、障害を持つ方の場合、新しい仕事を探すのに時間がかかることもあります。
そのため、失業保険を正しく理解し、適切に活用することが大切です。
ここでは、失業保険の基本的な仕組みや、障害者の方が利用できる特別な制度について詳しく解説します。
失業保険(雇用保険)とは
雇用保険は、原則として週20時間以上働いている人は必ず加入する、公的保険制度の1つです。
「自分が雇用保険に入っているか分からない」という方は、給与明細を確認してみましょう。
雇用保険に加入していれば、雇用保険料が控除されています。
さて、雇用保険の制度の1つとして「失業等給付」があります。
求職を行う人や、様々なライフイベントで収入が減る方のための、雇用保険の給付金制度全体を指す言葉です。
失業等給付の中に「基本手当」というものがあります。
雇用保険に入っている人が失業したとき、ハローワークへ申請することで、生活を支えるために受け取れる給付金です。
この給付金がいわゆる「失業保険」と呼ばれるものです。
失業中の経済的な不安を軽減し、次の仕事を見つけるまでの支えとなる仕組みです。
障害者は「就職困難者」に分類される
失業保険を受け取れる失業者には、いくつかの分類があります。
障害者の方は、雇用保険において「就職困難者」として特別な扱いを受けます。
これは、障害を持つ方が就職する際に直面する困難を考慮し、支援を手厚くするための措置です。
就職困難者に該当すると、失業保険の受給期間が一般の労働者よりも長く設定されます。
詳しい内容については後述しますが、例えば、一般の労働者が最大150日間の給付を受けられるのに対し、就職困難者は最大360日間の受給が可能です。
また、ハローワークでは障害者向けの専門窓口が設けられており、失業保険の手続きだけでなく、再就職に向けた支援も受けられます。
自分が就職困難者に該当するかどうかを事前に確認し、適切なサポートを活用しましょう。
就職困難者として認定される障害の種類は以下の通りです。
- 身体障害者手帳を持っている方
- 療育手帳(愛護手帳)を持つ知的障害者
- 精神障害者保健福祉手帳を持つ方(例外あり)
- その他の特別な事情があり、ハローワークが特別に認めた方
障害者の失業保険(雇用保険)の受給条件と期間
失業保険を受給するためには、一定の条件を満たす必要があります。
障害者の方の場合、一般の労働者と比べて「就職困難者」として特別な基準が設けられていることは前章で説明しました。
この章では、障害者が失業保険を受給するための具体的な条件や、受給期間の違いについて詳しく解説します。
受給の可否や受給期間の長さは、ハローワークでの手続きや雇用保険の加入期間によって変わるため、正しい知識を持ち、適切に申請を進めることが大切です。
また、受給資格を満たしているかどうかを確認する方法や、申請時に注意すべきポイントについても紹介します。
受給条件
失業保険を受け取るには、条件を満たす必要があります。
離職日以前の一定期間の雇用保険加入
失業保険を受給するには、直近2年間に通算12カ月以上の雇用保険加入期間があることが条件となります。
この他、失業理由が「勤めていた会社の倒産」など特別な事情がある方は、別途受給条件が緩和されることがあります。
ハローワークでの求職申込みと求職活動
失業保険を受給するためには、まずハローワークに求職の申込みをすることが必要です。
また、受給期間中は定期的に求職活動を行う必要があります。
求職活動として認められる例は以下の通りです。
- ハローワークでの相談や求人への応募
- 企業の求人への応募や面接
- 職業訓練の受講
受給期間
就職困難者の場合、最大360日間
障害者の方は一般の労働者より長い期間、失業保険を受給できます。
受給期間
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | ||
区分 | 45歳未満 | 150日 | 300日 | |||
45歳以上65歳未満 | 360日 |
(出典:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス.厚生労働省.,https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html,(引用日2025-02-12))
失業保険(雇用保険)の給付額の計算方法
失業保険を受給するにあたって、どのくらいの給付を受けられるのかはとても重要なポイントです。
特に、収入が途絶えた状態では、生活費の確保が大きな課題となります。
失業保険の給付額は、離職前の給与額や年齢などによって異なりますが、おおよその計算方法を知っておくことで、自分がどの程度の支援を受けられるのか把握することができます。
このセクションでは、基本手当日額の計算方法や、支給される割合の目安について詳しく解説します。
受給額の計算は少し複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば理解しやすくなりますので、一緒に見ていきましょう。
基本手当日額の計算式
失業保険を受給する際に支給される金額は、退職前の給与を基に計算されます。
これを「基本手当日額」といい、失業中の生活を支える重要な指標になります。
離職前の給与の50~80%程度が目安
支給される基本手当日額は、離職前の給与の50~80%程度が目安とされています。
これは、給与が低い方ほど高い割合で給付される仕組みとなっており、特に低所得の方への支援を手厚くする目的があります。
例えば、給与が高い場合は50%程度、給与が低い場合は80%程度が支給される傾向にあります。
ただし、年齢や前職の給与水準によって細かい調整が行われるため、正確な給付額を知るにはハローワークでの相談が必要です。
失業保険の給付額は、次の仕事を探すまでの大切な生活資金となります。
自分がどのくらい受給できるのかを把握しておきましょう。
失業保険(雇用保険)の申請手続き
失業保険を受給するためには、一定の手続きを踏む必要があります。
申請の流れや必要な書類を事前に把握しておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。
特に、初めて申請する場合は、手続きの流れが分かりにくく感じることもあるかもしれません。
しかし、ハローワークでのサポートを活用しながら進めれば、必要な準備を確実に行うことができます。
このセクションでは、失業保険の申請に必要な書類や、実際の手続きのステップについて詳しく解説していきます。
必要書類
失業保険を申請する際には、以下の書類が必要です。
- 離職票(会社から発行)
- マイナンバーカードまたは本人確認書類
- 通帳またはキャッシュカード(給付金の振込先)
手続きの流れ
離職証明書の取得
まず、勤務先から「離職票」を受け取ります。
ハローワークでの手続き
ハローワークに行き、求職の申込みと失業保険の申請を行います。
失業保険受給者説明会への参加
申請後、ハローワークで「失業保険受給者説明会」に参加する必要があります。
求職活動の実績作り
失業保険を継続して受給するには、求職活動の実績を提出する必要があります。
失業中の健康保険や年金
仕事を失った際、健康保険や年金の扱いをどうすればよいか、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
収入が途絶えると、医療費の負担や将来の年金支払いについて悩むことも増えるかもしれません。
しかし、適切な制度を利用することで、生活への影響を最小限に抑えることができます。
健康保険の選択肢
健康保険にはいくつかの選択肢があり、状況に応じて適切なものを選ぶことが重要です。
- 国民健康保険(国保):
会社の健康保険から外れた場合、市区町村の窓口で加入手続きを行う必要があります。
保険料は前年の所得に基づいて決まり、自治体ごとに異なります。
退職後14日以内に手続きをしないと無保険状態になる可能性があるため、早めに手続きを行いましょう。 - 任意継続健康保険:
退職前に加入していた健康保険をそのまま継続する方法です。
会社の健康保険組合や協会けんぽに申請し、最長2年間継続できます。ただし、保険料は全額自己負担(会社負担分がなくなる)となるため、国民健康保険と比較して負担額が高くなる可能性があります。
申請期限は退職後20日以内なので注意が必要です。 - 家族の健康保険の扶養に入る:
一定の条件を満たせば、配偶者や親の健康保険の扶養に入ることができます。
扶養に入ることで保険料の支払いが不要となるため、最も経済的な選択肢となる場合があります。
ただし、扶養に入るためには収入制限があり、年間130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であることが条件となります。
国民年金の取り扱い
失業中であっても、国民年金の支払い義務は継続します。
しかし、収入が減少した場合、「免除申請」や「納付猶予制度」を活用することで、経済的負担を軽減することが可能です。
- 免除申請:
前年の所得が一定以下の場合、国民年金の全額または一部(4分の3・半額・4分の1)の免除を申請できます。
免除された期間も年金加入期間としてカウントされるため、将来の年金受給資格に影響しにくいのが特徴です。 - 納付猶予制度:一定の所得以下であれば国民年金の支払いを猶予することができます。
猶予期間中は納付義務が一時停止されますが、その期間の年金額は反映されないため、将来的に追納することで受給額を確保することが可能です。
どの制度を選択すればよいか分からない場合は、市区町村の窓口やハローワークに相談し、自分に合った方法を検討することをおすすめします。
制度を上手に活用し、不安なく次の就職に向けた準備を進めましょう。
障害者の再就職支援制度
障害を持つ方が新しい仕事を見つける際、さまざまな支援制度を活用できます。
これらの制度をうまく利用することで、求職活動の負担を軽減し、よりスムーズに就職先を見つけることが可能です。
仕事探しは不安を伴うものですが、適切なサポートを受けることで、自分に合った職場環境を見つけやすくなります。
例えば、職業訓練プログラムに参加すれば、専門的なスキルを身につけることができ、雇用のチャンスが広がります。
また、ハローワークや障害者就業・生活支援センターでは、個別相談を通じて職業適性の分析や、希望に沿った求人情報の提供が行われます。
さらに、企業とのマッチングを支援する制度を活用すれば、自分の強みを活かせる仕事に出会いやすくなります。
こうした制度を利用しながら、自分に合った働き方を見つけ、安定した職業生活を築いていきましょう。
ハロートレーニング(障害者訓練)
障害者の方が職業スキルを身につけるための公的な職業訓練制度です。
特に、ITスキル(パソコン操作・プログラミング)や、事務職向けのビジネスマナー、専門的な技能訓練(製造業や介護業務)など、幅広い職種に対応したカリキュラムが用意されています。
訓練はハローワークが紹介する職業訓練校や支援機関で受講でき、無料または低額の受講料で受けられる場合があります。
さらに、訓練中に一定の条件を満たせば「職業訓練受講給付金」を受け取ることも可能です。
詳細はハローワークで確認しましょう。
就労移行支援
一般企業への就職を目指す障害者を対象とした支援制度です。
施設では、職業訓練だけでなく、企業実習の機会が提供され、実際の業務を体験しながらスキルを身につけることができます。
また、履歴書の書き方指導や面接対策などの就職活動支援も受けられます。
さらに、就職後の職場定着のためのフォローアップもあり、適応が難しい場合は働き方の調整を企業と相談することができます。
自分の適性を知るためのアセスメントも行われるため、無理のない就職活動が可能です。
障害者就業・生活支援センター
就労に関する相談だけでなく、生活面での支援も提供する施設です。
例えば、通勤方法のアドバイスや職場での人間関係に関する相談、働きやすい環境を整えるための助言など、幅広いサポートを受けられます。
また、就職前の準備だけでなく、就職後の職場定着支援も行っており、長期的なキャリア形成をサポートします。
安定した職業生活を送るためのアドバイスが受けられるため、初めての就職や転職に不安がある方にとって心強い存在です。
地域障害者職業センター
障害のある方が職業適性を理解し、能力を伸ばすための専門的な訓練やカウンセリングを提供する機関です。
職場見学や企業とのマッチング支援も行っており、ハローワークと連携しながら具体的な仕事探しをサポートします。
また、職業適性評価を受けることで、自分に合った職種や働き方を見つけやすくなります。
仕事に必要なスキルを身につけるだけでなく、職場環境への適応力も養うことができるため、長期的なキャリア形成を考える際に活用するのがおすすめです。
障害者トライアル雇用
短期間の試用雇用を通じて、障害者の方と企業がマッチングを図る制度です。
トライアル雇用期間(原則3か月)中に、実際の業務を経験しながら、職場の雰囲気や業務内容が自分に合っているかを見極めることができます。
また、企業側も、障害者の方が業務に適応できるかどうかを判断し、職場環境を調整する期間として活用できます。
一定期間を経て、正規雇用に移行するケースも多いため、無理なく就職を目指すことが可能です。
これらの支援制度を活用することで、自分に合った仕事を見つけるだけでなく、就職後の職場定着やキャリア形成にもつなげることができます。
積極的に利用し、自分に最適な働き方を見つけていきましょう。
まとめ
障害者の方が失業保険を受給するには、特別な条件や手続きが必要です。申請の際には、必要書類を事前に準備し、ハローワークでの手続きを確実に進めることが大切です。
また、受給期間や給付額を正しく理解し、生活設計を立てることで、次の就職活動にスムーズに移行できます。特に、就職困難者に該当する場合、一般の受給者よりも長い期間支給される可能性があるため、制度を十分に活用しましょう。
さらに、再就職を目指す際には、職業訓練や就労支援サービスを積極的に利用することで、より安定した職場環境を見つけることができます。
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