合理的配慮とわがままの違いと判断基準

合理的配慮とわがままの違いと判断基準
「配慮をお願いしたいけれど、これってただのわがままだと思われないかな……」
そんなふうに、不安な気持ちを抱えていませんか?
障害のある方が働きやすく、学びやすくなるために求めるサポートが、時に「わがまま」と誤解されてしまうことがあります。
でも、それは本当に“わがまま”なのでしょうか?
この記事では、「合理的配慮」と「わがまま」の違いを丁寧に解きほぐしながら、配慮を求めることが自分らしく働くための大切な一歩であることをお伝えします。
あなたが安心して職場に声を届けられるように、一緒にその“違い”と“判断基準”を整理していきましょう。
合理的配慮とは
職場のさまざまな場面で、障害のある方がほかの人と同じように働き、生活していくためには、ちょっとした手助けや環境の工夫が必要です。
このようなサポートや環境調整のことを「合理的配慮」といいます。
たとえば、通勤ラッシュを避けた時差出勤の許可や、静かな環境で作業できる場所の確保、情報伝達の工夫など、その内容は人によって異なります。
しかし、時には「それって特別扱いでは?」「わがままを言ってるだけでは?」と、誤解されたり心ない言葉をかけられたりすることもあります。
そんなとき、配慮を求めること自体にためらいを感じてしまいますよね。
この記事では、合理的配慮の正しい意味や、わがままとの違いをどう判断すればよいのかを、できるだけわかりやすく丁寧にご紹介していきます。
配慮を求めるのは「甘え」ではありません。
本当に必要な支援を、安心して伝えられるようになるために、一緒に整理していきましょう。
合理的配慮の定義
「合理的配慮」とは、障害のある方が、ほかの人と同じように社会の中で暮らし、学び、働くことができるようにするために行う、合理的で現実的なサポートのことです。
この配慮は、障害者差別解消法に基づき、企業や行政機関などに対して求められる大切な取り組みです。
具体的には、以下のようなサポートが合理的配慮にあたります。
- 車いすを利用している方のために、机の高さを調整する
- 発達障害のある方に、口頭ではなく、書面で指示を出すようにする
- 精神障害のある方に、静かな場所で集中できるように作業環境を整える
どれも、特別な扱いというよりも、その方にとって「当たり前のことが当たり前にできるようにする」ための工夫です。
あくまで「他の人と同じスタートラインに立つために必要な調整」であり、可能な範囲で行われるものです。
そのため、企業には「できる限り対応すること」が求められていますが、それが過度な負担になる場合には配慮の仕方を見直す必要があります。
まずは、困りごとを伝え、どんなサポートがあると自分らしく働けるのか、一緒に考えることが出発点です。
合理的配慮と特別支援の違い
「合理的配慮」とよく混同されるもののひとつに、「特別支援」という言葉があります。
一見似ているようでいて、実はこの2つには重要な違いがあります。
まずは、以下の表でその違いを整理してみましょう。
項目 | 合理的配慮 | 特別支援 |
対象 | 原則すべての障害者 | 主に教育機関で支援が必要な児童・生徒 |
義務かどうか | 行政・企業などに努力義務(合理的配慮の提供)あり | 教育機関による体系的な支援体制が義務化されている |
主体 | 本人の申し出をもとに調整される | 教育機関が主導し、学校側の判断で提供される |
合理的配慮は、本人が必要とする配慮を自ら伝え、それに対してできる範囲で調整を行うことが前提です。
一方、特別支援は学校や教育機関が主体となり、個別の教育支援計画に基づいて提供される支援です。
たとえば、就職先で「週に1回の通院に合わせて、勤務時間を調整してもらう」といった申し出は、合理的配慮にあたります。
一方、小学校で教員がマンツーマンで授業のサポートをしたり、個別学習プログラムを提供したりするのは、特別支援の一環です。
このように、合理的配慮は大人の社会生活における「本人発信の支援」、特別支援は主に教育の現場での「学校主体の支援」という違いがあります。
混同しやすい言葉だからこそ、仕組みの違いや目的の違いをきちんと理解しておくことで、自信をもって配慮を求めることができるようになります。
合理的配慮とわがままの違い
「配慮をお願いしたい」と思っていても、それが本当に合理的な配慮なのか、それとも“わがまま”と思われてしまうのか……。
多くの方がこの違いに戸惑い、申し出をためらってしまうことがあります。
しかし、合理的配慮とわがままには、明確な違いがあります。
この違いを見極めるためには、次の3つの視点を持つことがとても役立ちます。
- そのお願いの「目的」は何か?
- 内容が「具体的」に説明できるか?
- 周囲に対して「公平性」が保たれているか?
この3つの視点をもとに考えることで、自分が求めているものが“合理的配慮”なのか、それとも少し調整が必要なのか、冷静に判断しやすくなります。
この章で、それぞれの視点について具体例も交えて詳しくご紹介していきます。
あなたが安心して自分に必要なサポートを伝えられるよう、一緒に確認していきましょう。
違いを明確化するポイント
合理的配慮とわがままの違いを見分けるためには、以下の3つの視点を持つことがとても大切です。
目的
合理的配慮の目的は「平等な機会を確保すること」です。
障害のある方が、周囲と同じように働いたり、学んだりできるようにするために必要な調整やサポートが合理的配慮です。
たとえば、「視覚に障害があるため、紙の資料をデジタルデータで提供してほしい」というのは、業務内容を理解しやすくするための目的が明確で、合理的配慮に該当します。
一方で、「静かな部屋で1人だけ仕事をしたい。周囲と関わりたくないから」という理由では、業務に支障がある場合は合理的配慮とは言いづらくなることもあります。
目的が「他者との同等な機会を得ること」に向いているか、それとも「自分の都合や希望を通したいだけ」なのかを振り返ってみると、区別がつきやすくなります。
具体性
合理的配慮には、明確な理由と具体的な内容が必要です。
例として、
- 通院のために「毎週火曜は15時に退勤したい」→具体的な事情と継続性があり、合理的配慮といえます。
- 「今日はちょっと気分が乗らないから早退したい」→理由があいまいで一時的。
配慮を求めるときには、「何に困っているのか」「どのような配慮があると助かるのか」を明確に伝えることが大切です。
公平性
合理的配慮は、「誰かの不利益を伴わない範囲」で行うのが原則です。
他の社員の業務を著しく圧迫するような要望は、配慮というよりも過剰な要求になってしまいます。
つまり、「他の人が不公平に感じるほどの優遇ではないか?」という視点が必要です。
- 周囲の業務に大きな負担をかける
- 特定の人だけが繰り返しフォローに回る必要がある
このような状況が生まれると、たとえ配慮の目的が正当であっても、「過剰な負担」と判断されることがあります。
配慮をお願いするときには、「どこまでが相手に無理のない範囲か」を一緒に考える姿勢が信頼につながります。
この3つの視点「目的」「具体性」「公平性」を意識することで、配慮の申し出がより伝わりやすくなり、誤解やトラブルを減らすことができます。
職場における具体例
ここでは、実際の職場での合理的配慮と「わがまま」と捉えられがちなケースを比較してみましょう。
- 合理的配慮の例:
- 「集中力が持続しにくい」という特性がある方に対して、通常の休憩に加えて1回多く休憩を取れるようにする。
- 通院が定期的に必要な方に対して、勤務時間を調整して通院日に早退または遅刻を許可する。
- 聴覚過敏がある方に対して、ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可し、静かな席への配置を行う。
これらはいずれも、その人が仕事に集中しやすくなるようサポートするものであり、他の社員の業務を過度に妨げることなく現実的に実施できる工夫です。
- わがままと捉えられやすい例:
- 「気分がのらないから今日は急に休みたい」と、事前の連絡や理由の説明なく頻繁に休むことを求める。
- 「自分だけは定時退社を徹底したい」と言いながら、繁忙期や他のメンバーの状況を考慮しない姿勢を貫く。
- 「苦手な業務は一切やりたくない」と伝え、業務全体からの完全な免除を要求する。
これらの例は、理由があいまいであったり、他の社員とのバランスを欠いていたりするため、合理的配慮ではなく「わがまま」と誤解されやすい要望になってしまいます。
このように、「自分にとって必要なこと」と「職場の環境や他者への配慮」のバランスを見ながら、現実的な配慮内容を丁寧に伝えることがとても大切です。
配慮を求めるときには、「なぜ必要なのか」「どうすれば無理なく対応できるか」を一緒に考えていけると、お互いにとってより良い職場づくりにつながります。
合理的配慮をわがままや特別扱いと感じてしまう理由
「こんなことをお願いしてもいいのかな?」「まわりから“ズルい”って思われないかな?」
そんなふうに感じてしまったことはありませんか?
配慮を申し出た本人も、対応する職場の側も、「これはわがままでは?」と疑問に思う場面があります。
その背景には、合理的配慮についての理解不足や、経験の少なさがあることが多いのです。
以下のような声や思い込みが、誤解を生んでしまう要因になります。
- 「特別扱いされてズルい」という誤解
- 「障害があっても周囲と同じようにすべき」という無意識のプレッシャー
- 「甘やかしてはいけない」という固定観念
- 「以前にも同じような対応をしたことがないから不安」という職場の心理的な抵抗感
- 「他の社員との不公平感を生んでしまうかもしれない」という過剰な配慮
これらの感情や反応は、悪気があるわけではなく、「合理的配慮の本来の目的」がまだ十分に知られていないことが原因です。
合理的配慮は、“特別に優遇する”ためのものではありません。
障害のある方が他の人と同じようにチャンスを得るための「公平」を実現する工夫です。
この考え方が広がることで、申し出る側も受け入れる側も、無用な誤解や遠慮を減らしていけます。
理解を深めることは、配慮を前向きに話し合える第一歩です。
「わがままかもしれない」と感じたそのときこそ、自分や周囲の思い込みを見つめ直すチャンスなのかもしれません。
合理的配慮を求める際に大切なポイント
「配慮をお願いしてもいいのか不安……」「どう伝えれば角が立たないだろう……」そんな気持ちを抱えている方も少なくないと思います。
でも、あなたが自分らしく働くためには、必要な配慮を伝えることはとても大切なことです。
ここでは、職場で配慮を申し出る際に大切にしたい心構えと具体的な手順について、わかりやすくご紹介します。
配慮を求めることは、あなたが安心して力を発揮するための「準備」です。
遠慮せず、自分らしく働くための一歩を、少しずつでも踏み出してみてくださいね。
配慮を求めるための申し出をする
まずは、自分が「どんな場面で困っているのか」、そして「どんなサポートがあると働きやすくなるのか」を整理してみましょう。
たとえば、
- 長時間の会話で疲れやすい → 会議の時間を短くする、または事前に資料をもらう
- 刺激に敏感で集中しづらい → パーテーションを設置してもらう など
ポイントは、「困りごと」と「解決策」をセットで伝えることです。
初めは緊張するかもしれませんが、伝えることからすべてが始まります。
自身の障害と改善案をしっかり伝える
配慮を求めるときは、自分の障害の特性と、それによって日常業務にどう影響が出るのかを具体的に伝えましょう。
たとえば、「聴覚過敏があるので、電話対応を避けられる業務を希望しています。その代わりにメール対応や資料作成に力を入れたいです」といったように、配慮と自分の工夫をセットで提示すると、相手にも伝わりやすくなります。
当事者自身がルール作りに関わる
配慮を受けるうえで、「どうしたらうまくいくか」を職場と一緒に考える姿勢も大切です。
「これはできるけど、これは難しい」「この時間帯は体調が安定しやすい」など、自分にとって現実的な対応を一緒にルール化することで、無理なく長く働ける環境につながります。
情報共有やフォロー体制を構築してもらう
配慮は一人だけで完結するものではありません。
周囲の理解や協力が必要です。
職場では以下のような情報共有の工夫が効果的です。
- 担当者(窓口)を明確にする
- 自分に関わる業務上の注意点を伝えてもらう仕組みを作る
- チーム内で配慮内容を共有してもらう(必要な範囲で)
理解の輪が広がることで、お互いにストレスの少ない関係が築けます。
定期的に見直しの機会をつくってもらう
最初に決めた配慮が、時間とともに合わなくなってくることもあります。
体調や仕事内容が変わることもありますよね。
そのためにも、配慮の内容が機能しているか、定期的に話し合う機会を設けてもらいましょう。
1ヶ月後、3ヶ月後など、タイミングを決めて見直すと、継続的に働きやすい環境が整いやすくなります。
合理的配慮における過度な負担
合理的配慮は、障害のある方が安心して働いたり学んだりするために必要な大切な支援です。
しかし、その配慮が組織にとって「過度な負担」になる場合、すべてを受け入れることが難しいこともあります。
厚生労働省においても「合理的配慮の提供の義務については、事業主に対して「過重な負担」を及 ぼすこととなる場合は除くこととしている。」と定められています。(厚生労働省|「合理的配慮指針」(2015年)|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html)
合理的配慮とは「どんな願いもすべて叶えること」ではなく、「できる範囲で」「双方にとって現実的な形で」調整することが求められています。
ここでは、職場や学校において配慮の限界となりうる“過度な負担”の具体例を挙げながら、現実的なバランスの取り方について考えていきましょう。
職場における過度な負担の具体例
以下のようなケースでは、企業にとって実施が困難と判断される可能性があります。
- 常に他の社員が代替業務を負担し続ける体制(例:特定の業務を完全免除し、チームメンバーが恒常的に代行)
- 多額の費用がかかる設備導入や、専門スタッフを常駐させることを求める(例:常時介助者の同席など)
- 就業時間外に送迎を要求する(通勤支援は公的制度を活用することが基本となります)
企業側にも限られた人員や予算の制約があるため、実施が現実的でない場合には他の代替手段を一緒に考える必要があります。
合理的配慮に必要な実践的な視点とアプローチ
合理的配慮を職場で実現するには、当事者の努力だけに頼るのではなく、組織全体で支え合う環境づくりが欠かせません。
「配慮が必要」と感じたときに、安心して声を上げられる職場には、日頃の信頼関係や共通認識の積み重ねがあります。
ここでは、合理的配慮を「制度」だけでなく「風土」として根付かせるための、3つのアプローチをご紹介します。
職場での対話の重要性
合理的配慮は“マニュアル通り”ではうまくいかないこともあります。
なぜなら、障害の種類や程度、感じ方は人によって違うからです。
そのため、日常的に「困っていることはない?」と声をかけ合える風土づくりがとても大切です。
体調や業務量を相談しやすい仕組みを取り入れるなど、対話の場があるだけで、配慮の質が大きく変わっていきます。
ガイドラインの作成
合理的配慮に関する考え方や対応の方針を、職場全体で共有できるようにガイドラインを整備することも効果的です。
たとえば、
- 障害特性ごとの配慮例を一覧にする
- 配慮の相談窓口や申出方法を明記する
- 配慮を受ける側・配慮をする側、双方の留意点を記載する
このように指針を文書化しておくことで、担当者によって対応がブレることを防ぎ、属人化を避ける仕組みができます。
周囲の理解を深める教育
合理的配慮をスムーズに行うためには、職場全体の「理解」が土台になります。
- 障害の特性についての基礎知識
- 合理的配慮の目的や必要性
- 配慮とわがままの違い
これらを学ぶ社内研修や情報共有の場を定期的に設けることで、無理解や偏見から生じるトラブルを未然に防ぐことができます。
また、周囲が理解を深めることで、当事者も「伝えてよかった」と思える職場環境が育ちます。
日頃の対話、共通の指針、学び合いの姿勢が、誰もが安心して働ける職場づくりにつながるのです。
まとめ
合理的配慮は、誰かを特別に優遇するためのものではありません。
障害のある方が、他の人と同じスタートラインに立つための「工夫」や「調整」です。
「配慮=わがまま」と思われることへの不安は、多くの方が感じているものですが、違いを判断するためのポイント(目的の明確さ・具体性・公平性)を知ることで、安心して伝えられるようになります。
配慮を求めるときには、自分の困りごとを整理し、相手との対話を通じて「どうすれば働きやすくなるか」を一緒に考えていく姿勢が大切です。
そして何より忘れないでください。
配慮をお願いすることは、決して甘えでも、わがままでもありません。
それは、あなたが自分らしく働くための「正当な権利」であり、「前向きな選択」です。
一人で抱え込まず、信頼できる人や支援機関に相談しながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
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この記事の執筆者
2012年スクエアプランニング株式会社を設立。2016年より障害者パソコン訓練を愛知県の委託を受けて開始。人材ビジネス20年以上の経験をもとに様々な障害をお持ちの訓練生に対して社会進出、社会復帰のお手伝いをさせて頂いております。 今後もより多くの方に安心や自信を持って頂くことを念頭に、様々な情報発信をしていきたいと考えています。