合理的配慮とは――2024年義務化の全体像と企業の実務:定義・法律・判断基準・職場事例・進め方
2024年4月より施行された、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)の施行によって、民間企業でも合理的配慮の提供が法的義務になりました。
とはいえ人事・労務の現場では「合理的配慮とは結局どこまでやればいいのか」という迷いが生まれやすいテーマでもあります。
「何をしたら差別になるのか分からない」
「過重な負担って、誰がどう判断するのか」
「前例がないので怖い」
こうした不安の声を聞くこともあります。

しかしその一方で、合理的配慮は“特別なこと”をする制度ではありません。
本人と対話しながら、社会的障壁を取り除き、働ける形に調整することが基本です。
ルールを知るだけでなく、実務として「手順」と「判断軸」を持つことが大切になります。
この記事では、合理的配慮とは何かという定義から、義務化の背景、合理性の判断基準、職場での具体例、進め方、法的リスクまでを、企業の担当者向けに体系的に整理します。
読み終えたときに、社内で説明できる言葉と、明日から使える進め方が手元に残るようにまとめています。
障害者採用や定着支援を強化したい企業さまにとって、実務のヒントになれば嬉しく思います。
合理的配慮とは?基本的な意味と背景を知る
2024年4月1日より、民間事業者でも「合理的配慮の提供」が法的義務になりました。
採用・労務の現場では、まず「合理的配慮とは何か」を正しく理解することが、実務の土台になります。
合理的配慮とは、障害のある方が仕事や職場で不利益を受けないように、必要かつ適当な変更・調整を行うことです。
代表的な例でいえば、車椅子ユーザーの方のためにスロープを設置するなどが挙げられます。
ここで大切なのは、合理的配慮は「特別扱い」ではないという点です。
同じスタートラインに立てるように、環境ややり方を整えることが合理的配慮の本質です。
そして、合理的配慮は「一度決めたら終わり」ではなく、本人の状況や業務の変化に合わせて見直していく前提で考えると良いでしょう。
採用選考の応募フォームや面接方法、入社後の配属や評価面談、研修参加の方法など、企業活動のあらゆる場面で“合理的”な工夫が問われます。
一方で、社内ルールが曖昧なままだと、担当者ごとに判断がぶれやすくなります。
その結果、本人の不安が高まり、トラブルや定着不良につながることもあります。
だからこそ、人事・労務としては「合理的配慮とは何か」を言葉で説明できる状態にしておき、社内で共通認識を持つことがとても重要です。

合理的配慮の定義と社会モデルの考え方
障害者差別解消法における合理的配慮を理解するときに欠かせないのが、「障害の社会モデル」という考え方です。
これは、障害の原因を個人の心身機能だけに求めるのではなく、社会側の障壁が参加や活躍を妨げている、と捉える考え方です。
たとえば、足が不自由なため段差のある職場は移動しづらい、文字情報だけのマニュアルでは理解しづらい(図解や手順の見える化が必要)といった状況は「社会的障壁」に当たります。
つまり、困りごとの一部は、職場環境や運用の側に原因がある可能性がある、ということです。
この視点を持つと、「本人に頑張ってもらう」だけが解決策ではないと気づけます。
そして実際には、仕事の進め方を少し変えるだけで、能力が十分に発揮できるケースも少なくありません。
たとえば、階段に手すりを設置する。
指示を口頭だけでなく文章でも渡し、会議資料を事前に共有する。
納期や優先順位を見える化する。
こうした工夫は、障害のある方だけでなく、職場全体の生産性や事故・ミス削減にもつながりやすく、ひいては職場の多くの方に恩恵があります。
国連条約と日本国内法での位置づけ
合理的配慮の考え方は、国連の「障害者の権利に関する条約」でも定義されています。
そこでは、障害のある人が権利や自由を平等に享受できるようにするため、過度の負担にならない範囲での変更・調整が求められると整理されています。
そして日本国内でも、合理的配慮は複数の法律で位置づけられ、企業実務に直結するテーマになっています。
特に人事・労務担当者として押さえておきたいのは、「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」では守備範囲が少し違うという点です。
雇用の場面では、障害者雇用促進法が基本になります。
一方で、採用広報や社外向けサービスの場面では、障害者差別解消法の考え方も関わってきます。
障害者差別解消法と合理的配慮
障害者差別解消法では、合理的配慮を提供しないことが、状況によっては「差別」に当たり得ると整理されています。
そのため、民間事業者も合理的配慮の提供が義務となった今、企業の説明責任はより重くなりました。
重要なのは「できない」と判断する場面があっても、そこで議論を止めないことです。
なぜ難しいのかを説明し、代替案を検討する姿勢が、実務では強く求められます。
障害者雇用促進法における合理的配慮
雇用の分野では、障害者雇用促進法により、事業主は過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。
ここでのポイントは、「一律の正解」がないことです。
同じ障害名でも困りごとは人によって異なります。
職種や業務内容、職場環境によっても必要な調整は変わります。
合理的配慮とは「制度として決められたメニューを渡すこと」ではなく、本人と対話しながら“働ける形”を一緒に作るプロセスなのです。
なぜ合理的配慮が義務化されたのか
合理的配慮が義務化された背景には、現場で起きていた“ばらつき”があります。
これまで合理的配慮が「努力義務」の範囲にとどまっていた場面では、対応が担当者や組織文化によって大きく変わってしまいがちでした。
その結果、同じような困りごとを抱えていても、ある会社では働けるのに、別の会社では入口で断られてしまう。
そんな不公平が起きやすかったのです。
そこで、社会全体として最低限の土台を整え、合理的配慮を“仕組み”として提供する必要性が高まりました。
人事・労務の視点で言えば、これは単に「義務が増えた」話ではありません。
採用の公平性を高め、定着を支えるための標準装備が求められるようになった、という変化です。

2024年4月施行の改正障害者差別解消法
先に述べた通り、2024年4月1日施行の改正障害者差別解消法により、民間事業者でも合理的配慮の提供が義務になっています。
実務上重要になってくるのは、本人から申し出(意思の表明)があった場合に、過重な負担にならない範囲で対応するという枠組みが、より明確になったことです。
採用活動でも、応募方法の変更や面接時の配慮、適性検査の実施方法など、配慮の相談が増えることが想定されます。
また、雇用の場面は障害者雇用促進法の枠組みで整理されるため、両方の法律関係を踏まえて社内運用を作ることが重要です。
“思いやり”から“法的義務”へ変化した背景
合理的配慮は、もともと「思いやり」や「配慮の気持ち」と結びつけて語られがちでした。
もちろん、思いやりは職場づくりの大切な要素です。
ただ、思いやりだけに頼ると、どうしても“人による差”が出てしまいます。
担当者が変わったら対応が変わる。
忙しい部署だと検討すらされない。
こうした状態では、機会の平等は担保されません。
だからこそ、合理的配慮は「法的義務」として位置づけられ、企業として一定の説明責任と対応が求められるようになりました。
この変化は、実は企業側にとってもメリットがあるといえます。
ルールが明確になれば社内判断の根拠が作りやすくなり、トラブル予防につながるからです。
社会的障壁を取り除く責務としての合理的配慮
合理的配慮は、障害のある人を「支援するため」だけのものではありません。
社会的障壁を取り除き、誰もが参加できる環境を作るための取り組みです。
実務で大切なのは、合理的配慮を「断るための理屈」ではなく「できる形に変えるための検討」として捉えることです。
たとえば「この業務は無理」と決めつけるのではなく、どの工程が障壁になっているのかを分解し、代替手段を探す。
この姿勢があるだけで、本人との対話は前向きに進みやすくなります。
そして結果的に、採用ミスマッチの減少や早期離職の防止にもつながっていきます。

“合理的”かどうかは誰が判断するのか
合理的配慮とは、機械的に答えが出るチェックリストではありません。
企業の規模や職種、本人の状況によって、必要な調整は変わります。
だからこそ、判断の出発点は、本人の申し出や同意のもとで行う「事業者と本人の対話」になります。
一方で、合理的配慮は「何でも叶える義務」ではありません。
企業側には、事業継続や安全配慮など守るべき要件があり、負担にも限界があります。
そこで重要になるのが、「過重な負担」かどうかという判断軸です。
ここを曖昧にしたまま進めると、本人は「断られた」と感じ、企業側は「要求が大きい」と感じ、すれ違いが起きやすくなります。
事業者と本人の対話による合意形成
まず行うべきは、本人の申し出を受け止め、困りごとを具体化することです。
「何ができないのか」よりも、「どの場面で、何が障壁になっているのか」を丁寧に言語化します。
次に、職務の本質、つまり必須業務は何かを整理します。
その上で、調整により実現できる範囲を検討し、複数の選択肢を提示します。
合意した内容は、できれば「配慮の範囲」「実施期間」「見直し条件」まで含めて共有しておくと良いでしょう。
担当者が交代しても対応がぶれにくくなり、本人にとっても見通しが立ちやすくなります。
たとえば、精神障害のある社員から「朝の通勤ラッシュで体調を崩しやすい」という申し出があったケースを考えてみましょう。
この場合、まずは、どの時間帯・どの状況が負担になっているのかを丁寧に確認します。
その上で、必須業務が「決まった時間に社内にいること」なのか、「一定時間の業務遂行」なのかを整理します。
結果として、
- 始業時間を30分〜1時間ずらす
- 週に数日は時差出勤を認める
- 体調が安定するまで期間限定で運用する
といった複数の選択肢が考えられます。
こうした案を本人とすり合わせ、「試行期間は3か月」「状況を見て再度話し合う」といった条件まで共有しておくことで、双方が納得した形で合理的配慮を進めやすくなります。
このように、合理的配慮とは「可・不可を即断すること」ではなく、対話を通じて“働ける形”を一緒に探していくプロセスだと捉えることが大切です。
過度な負担の線引きと代替手段の検討
合理的配慮を検討する際に必ず出てくるのが「過度な負担(過重な負担)」という考え方です。
合理的配慮とは、企業に無制限の対応を求めるものではありません。
事業活動に著しい支障が生じる場合や、実現が極めて困難な場合まで対応する義務はないとされています。
重要なのは、「費用がかかるかどうか」だけで判断しないことです。
「過度な負担」であるかどうかの判断は、単に費用だけで決まるものではありません。
実現可能性、業務への影響、安全性、事業規模、財務状況などを総合的に見て判断します。
そして実務で特に大切なのは、過重と判断した場合でも、そこで終わらせないことです。
「なぜ難しいのか」を説明し、代替手段を一緒に検討する姿勢が、合意形成の鍵になります。
たとえば、完全な在宅勤務が難しいなら、週1回から試す。
フルタイムが難しいなら、短時間勤務から段階的に増やす。
こうした“中間案”を持てると、双方が納得しやすくなります。
行き違いが起こりやすい具体例と改善策
行き違いが起こりやすいのは、次のような場面です。
- 「安全配慮」を理由に、一律で断ってしまう。
- 「同じ障害だから同じ配慮でよい」と決めつけてしまう。
- 困りごとが曖昧なまま、結論だけ急いでしまう。
改善策としては、次の3点が特に有効です。
- 困りごとの再現条件を言語化する(いつ・どこで・何が)。
- 複数案を用意して試行する(いきなり固定しない)。
- 記録を残し、定期的に調整する(合意の更新前提で運用する)。
この3点を社内ルールに落とし込むと、合理的配慮の判断が属人化しにくくなり、実務が回りやすくなります。
職場での合理的配慮の具体例
合理的配慮とは、障害種別ごとの“定番メニュー”をそのまま当てはめることではありません。
ただ、人事・労務として「検討のたたき台」を持っておくと、本人との対話が進みやすくなります。
ここでは、過重な負担にならない範囲で検討されやすい例を整理します。

なお、以下の例はあくまで参考です。
重要なのは、本人の困りごとと業務要件に合わせて調整することです。
身体障害者に対する配慮事例
これらの配慮は、主に身体障害のある方を想定したものです。
- 車椅子ユーザーの方
- 下肢に障害があり長時間の立位や歩行が難しい方
- 上肢障害があり物を持ち運ぶ動作や細かな作業に負担がかかる方、
- 人工関節や内部障害などにより身体への負荷を調整する必要がある方
などが該当します。
こうした方々の場合、業務そのものよりも、移動・姿勢・持ち運び・設備配置といった「環境面」が社会的障壁になっているケースが少なくありません。
身体障害者への配慮を考える場合、物理的な障壁があることが多いですが、「設備を大きく変えないといけない」と構えすぎる必要はありません。
大規模な設備投資をしなくても、動線や作業方法を見直すだけで、働きやすさが大きく改善することがあります。
例えば、
- 段差の解消、通路幅の確保、動線の見直しを行う。
- 机の高さ調整や、作業台の位置変更で負担を減らす。
- トイレや駐車スペースの利用しやすさを確認し、什器の置き場所を工夫する。
- 持ち運びが多い業務は、台車や補助具を用意する。
- 立ち作業が中心の場合は、座ってできる工程を組み込む。
日々の業務動線や分担を見直すだけで改善できるケースも多いです。
視覚・聴覚障害者に対する配慮事例
これらの配慮は、主に視覚障害や聴覚障害のある方を想定したものです。
具体的には、
- 視覚に障害があり、文字情報や画面表示の確認が難しい方
- 弱視のため拡大表示やコントラスト調整が必要な方
- 聴覚障害があり、音声による情報取得が難しい方
- 会話や会議で聞き漏れが生じやすい方
などが該当します。
この場合の社会的障壁は情報保障、つまり「情報が音声だけ、または文字だけで提供されているため情報を得られないこと」であることが多いです。
情報の伝え方を少し工夫するだけで、理解度や業務効率が大きく向上するケースも少なくありません。
以下は、情報保障の観点から検討されやすい配慮例です。
- 資料をテキストデータで共有し、読み上げソフトに対応する。
- 文字サイズの拡大や、画面のコントラスト調整を行う。
- 重要な連絡は口頭だけでなく、チャットやメールでも伝える。
- 会議では、議題と結論を文章で残す。
- 必要に応じて筆談、字幕、要約筆記などの手段を検討する。
情報保障は、合理的配慮の中でも頻出テーマです。
「どの情報が届きにくいのか」を一緒に確認すると、具体策が出しやすくなります。
精神障害者に対する配慮事例
これらの配慮は、主に精神障害のある方を想定したものです。
具体的には、
- うつ病や双極性障害などで体調に波がある方
- 不安障害により緊張やストレスの影響を受けやすい方
- 服薬や通院と仕事の両立が必要な方
などが該当します。
精神障害の場合、業務能力そのものではなく、勤務時間、業務量、環境刺激、コミュニケーションの負荷が社会的障壁になることが多いです。
そのため、体調の波を前提にした設計や、無理のないペース配分が、定着の大きな鍵になります。
以下は、そうした特性を踏まえた配慮の例です。
- 通院配慮として勤務時間や休暇取得の柔軟性を持たせる。
- 休憩を取りやすい運用にし、体調悪化を防ぐ。
- 業務量を段階的に調整し、負荷の急増を避ける。
- 静かな作業場所を確保し、刺激を減らす。
- 指示は文書でも渡し、優先順位と期限を明確にする。
精神障害の場合、体調の波を前提に設計することがとても大切です。
電話の負荷が高い方にはチャットツールを用いるなど「調子が悪くなったときの連絡方法」まで決めておくと、現場が混乱しにくくなります。
発達障害者に対する配慮事例
これらの配慮は、主に発達障害のある方を想定したものです。
- 指示が曖昧だと理解しづらい方
- 複数作業の同時進行が苦手な方
- 感覚過敏により音や光、周囲の刺激に影響を受けやすい方
などが該当します。
発達障害のある方の場合、業務内容そのものよりも、仕事の進め方や情報の整理方法が障壁になっているケースが多く見られます。
そのため、個人の努力に委ねるのではなく、仕組みやルールを整えることで安定して力を発揮できる環境を作ることが重要です。
以下は、実務で取り入れやすい配慮例です。
- 手順の見える化として、チェックリストを用意する。
- 指示は曖昧にせず、具体的な言葉で伝える。
- ダブルチェックの仕組みを作り、ミスの再発を防ぐ。
- 予定変更がある場合は、早めに共有して見通しを作る。
- 感覚過敏がある場合は、席配置や音・光の調整を検討する。
発達障害では、「本人の努力」では埋めにくい困りごとが、環境調整で大きく改善することがあります。
また、複合して障害を持つ方が多く、特性や困りごとが個人ごとに大きく異なります。
事前のヒアリングで困りごとを明確化し、“仕組みで支える”という発想を持つと検討が進みます。

知的障害者に対する配慮事例
これらの配慮は、主に知的障害のある方を想定したものです。
- 業務手順を一度に覚えることが難しい方
- 抽象的な指示より、具体的な説明のほうが理解しやすい方
- 慣れた作業で安定して力を発揮できる方
などが該当します。
知的障害のある方の場合、業務の範囲や教え方が社会的障壁になっていることが多くあります。
工程を整理し、成功体験を積み重ねられる設計にすることで、長期的な定着や戦力化につながりやすくなります。
以下は、現場で実践しやすい配慮例です。
- 業務を小さな工程に分け、順番に覚えられるようにする。
- 実演と反復で習得できるように教える。
- 一度に多くを求めず、定着を確認して範囲を広げる。
- マニュアルは短文と図解を中心にして分かりやすくする。
- 報連相のタイミングを決め、迷いを減らす。
知的障害のある方の場合、成功体験を積み上げる設計が定着に直結します。
「できたこと」を評価しながら次のステップへ進む運用が効果的です。
社内相談窓口や支援体制の整備
合理的配慮を継続的に運用するには、相談先が明確であることが欠かせません。
「誰に相談すればよいか」が分からないと、困りごとが表面化しにくくなります。
また、相談したことが不利益につながるのでは、という不安があると、本人は申し出をためらいます。
そのため、プライバシー保護と不利益取扱いの防止を前提にした相談体制を整えることが重要です。
おすすめは、窓口を複線化することです。
たとえば「直属の上司」「人事」「産業保健」「外部窓口」のように、複数のルートがあると早期発見につながります。
合理的配慮の進め方と実施の流れ
合理的配慮とは、「決めて終わり」ではありません。
実施しながら最適化していく仕組みにしていくことが重要です。
人事・労務としては、申し出受付から合意、実施、見直しまでをフローにしておくと、属人化を防げます。
ここが整うと、現場の担当者も迷いにくくなり、本人も安心しやすくなります。
申し出から合意形成までのプロセス
プロセスは大きく3段階で整理すると分かりやすいです。
- 申し出(本人・家族等からの意思の表明)を受ける。
- 困りごとと業務要件を整理し、対応案を検討する。
- 過度な負担の有無を踏まえて合意形成し、必要なら試行する。
特に2では、困りごとを抽象のままにしないことが重要です。
「何が、どの場面で起きるのか」を具体化すると、対応案が出やすくなります。
書面化・記録化による合意の見える化
合理的配慮は、口頭合意だけだと認識がずれやすくなります。
担当者変更、部署異動、評価面談などのタイミングで「聞いていない」が起きやすいからです。
そのため、書面化・記録化を強くおすすめします。
書面に入れておきたい項目は、最低限で次のとおりです。
| 記録する項目 | 具体例 |
| 配慮内容 | 勤務時間の調整、指示の方法、席配置など |
| 本人ができること | 体調が安定している時間帯、得意な業務など |
| 会社が提供する支援 | サポート担当、ツール、手順書の整備など |
| 見直し時期 | 1か月後、3か月後、業務変更時など |
| 緊急時の連絡 | 体調悪化時の連絡先、対応手順など |
書面があるだけで、後日の紛争予防だけでなく、本人の安心感にもつながります。
定期的な振り返りと改善の重要性
配慮が機能しているかどうかは、業務の変化や体調の波で変わります。
だからこそ、定期的な振り返りが必要です。
月次や四半期など、職場の運用に合った周期を決めて、本人の主観(困りごと)と客観(成果・負荷)の両面から確認します。
そして、必要なら小さく調整します。
「変えること」は失敗ではありません。
改善していくこと自体が、合理的配慮の適切な運用です。

医師や支援機関との連携方法
医師や支援機関との連携は、合理的配慮の妥当性を高める上で有効です。
ただし、医療情報や障害特性の共有はプライバシーに直結します。
必ず本人の同意を得た上で、必要最小限の情報を共有することが大前提です。
連携先としては、就労移行支援、就労定着支援、地域障害者職業センター、産業保健スタッフなどが想定されます。
企業側が「何を確認したいのか」を整理してから相談すると、連携がスムーズになります。
事業者が知っておくべき法律・罰則とリスク
合理的配慮とは、現場の“良い行い”にとどまりません。
法令遵守とリスクマネジメントのテーマです。
特に注意したいのは、障害者差別解消法(一般のサービス提供等)と、障害者雇用促進法(雇用の場面)を混同してしまうことです。
混同したまま社内ルールを作ると、運用が曖昧になり、判断がぶれやすくなります。
人事・労務としては、「どの場面の話なのか」を切り分けて整理しておくと安心です。

関連する法律・条例の整理
関係する枠組みは、まず次の3つで整理すると理解しやすいです。
- 障害者差別解消法:不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供(2024年4月から民間も義務)。
- 障害者雇用促進法:雇用分野での差別禁止と合理的配慮の提供義務。
- 自治体条例:相談・紛争解決の仕組みが条例で整備されている地域がある。
特に採用実務では、応募から入社後までの流れの中で、どの法律が実務上の軸になるかを押さえておきましょう。
合理的配慮を提供しない場合の差別と制裁
合理的配慮を提供しないことで、障害のある方の権利利益が侵害される場合、差別に当たり得ると整理されています。
現時点(2025年12月現在)では、合理的配慮を提供しなかったとしても罰則などは規定されていません。
ただし、主務大臣が報告を求めたにもかかわらず報告しない、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象になります。(障害者差別解消法第二十六条)
また、企業として説明責任を問われる場面は増えており、繰り返して違反した場合には行政の助言・指導・勧告などの対象となる可能性もあります。
現場の対応が属人的だと、「会社としての姿勢」が見えにくくなり、結果的にリスクが高まります。
だからこそ、合理的配慮は個人プレーではなく、仕組みとして整備することが大切です。
行政からの指導・勧告・報告義務
合理的配慮を提供せず、また繰り返し提供義務を怠るなどした場合には、行政から報告を求められる可能性があります。
障害者差別解消法には、合理的配慮の不提供が疑われ、必要があると認められる場合、主務大臣が事業者に対して報告を求めたり、助言・指導・勧告を行うことがあると定められています。
そして、報告を求められたにもかかわらず報告しない、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となります。
記録化や社内共有を徹底し、説明できる体制を作っておきましょう。
罰則だけでなく社会的信用の失墜にも注意
実務上のリスクは、法的な制裁だけではありません。
採用広報でのSNSやクチコミの炎上、離職・定着不良、労務紛争、社内の心理的安全性の低下など、経営課題に直結します。
特に採用市場では、候補者は企業の姿勢をよく見ています。
合理的配慮の体制が整っている企業は、結果として応募の質や定着率にも良い影響が出やすくなります。
「義務だから仕方なく」ではなく、採用力を上げるための投資として捉えることが、現場では一番進めやすい考え方です。
まとめ――合理的配慮を通じて共生社会を実現する
ここまで見てきた通り、合理的配慮とは、障害のある方の能力発揮を「本人の努力」だけに委ねず、社会的障壁を取り除くことで機会の平等をつくる考え方です。
2024年4月からは民間事業者でも提供が義務化され、採用・サービス・社内制度のあらゆる場面で、建設的対話と記録に基づく運用がより重要になりました。
「過度な負担」の線引きは一律ではありません。
だからこそ、本人と会社が代替案まで含めて検討し、定期的に見直す仕組みを持つことが、トラブル防止と定着の両方に効きます。
そして、合理的配慮の整備は“採用の質”を上げる投資でもあります。
- 障害者採用をこれから強化したい。
- 配慮事項を整理しながらミスマッチを減らしたい。
そんな企業さまは、障害者採用に強い支援サービスと連携し、求人設計から定着まで一気通貫で相談できる体制を整えることをおすすめします。
当社の障害者向け職業紹介サイト「スグJOB」では、企業の採用ニーズに合わせた人材提案だけでなく、採用後の配慮事項の整理や環境づくりを含め、障害者雇用全般におけるアドバイスも行っています。
「合理的配慮とは何か」を“制度の理解”で終わらせず、現場で回る形に落とし込むところまで、私たちがお手伝いさせていただければ幸いです。
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この記事の執筆者
2012年スクエアプランニング株式会社を設立。2016年より障害者パソコン訓練を愛知県の委託を受けて開始。人材ビジネス20年以上の経験をもとに様々な障害をお持ちの訓練生に対して社会進出、社会復帰のお手伝いをさせて頂いております。 今後もより多くの方に安心や自信を持って頂くことを念頭に、様々な情報発信をしていきたいと考えています。






