ポイント解説

職業リハビリテーションとは?対象・流れ・実施機関・利用手順まで完全ガイド

職業リハビリテーションとは?対象・流れ・実施機関・利用手順まで完全ガイド

職業リハビリテーションとは?対象・流れ・実施機関・利用手順まで完全ガイド

目次

職業リハビリテーションとは?職業を理解し社会参加につなげる基本知識

職業リハビリテーション(職リハ)とは、障害のある方が自分の力を活かし、安心して働き続けられるように支える総合的なサポート体制を指す概念です。

実際の支援は、複数の制度やサービスの組み合わせによって行われます。
単なる「仕事の練習」ではなく、医療・福祉・雇用の専門家が連携し、その方の特性や体調に合わせて必要な支援を組み立てていきます。

一言で障害者といっても、一人ひとりの背景は異なります。
だからこそ職業リハビリテーションでは、「その人らしく働き続けられること」を大切にし、長期的な視点で寄り添う支援が行われます。

ガッツポーズをする私服の女性3人

国際労働機関や障害者雇用促進法における定義と目的

国際労働機関(ILO)では、職業リハビリテーションを「障害者が適当な職業に就き、これを継続し及びその職業において向上することを可能にし、それにより障害者の社会における統合又は再統合の促進を図ること」と定義しています。

日本でも障害者雇用促進法に基づき、次のような目的を持って制度が整えられています。

  • 働く意欲と能力を引き出し、適当な職場を見つけられること。
  • 就職から職場定着まで、切れ目のない支援を提供すること。
  • 本人が継続して働き、自立できるようにすること。

こうした支援制度の充実により、相談先がより利用しやすくなり、支援を受けられる機会が広がりました。

内容としては職業評価や職業指導、職業準備訓練と職業訓練、職業紹介、保護雇用などがあります。

障害がある人にとっての役割と社会的な意義

職業リハビリテーションが果たす役割は、「働くことを通じて、その人らしい生活を支えること」です。

例えば次のようなメリットがあります。

  • 職業評価で、自分に合う仕事や得意・不得意が分かる。
  • 専門スタッフのアドバイスを受け、スキルを身につけられる。
  • 職場で困ったときもジョブコーチが間に入り、環境調整をしてくれる。

また、働くことで収入が安定し、社会とのつながりや自己肯定感が高まることも大きな意義です。
企業にとっても障害への理解が深まり、ダイバーシティ推進につながります。

もし「働きたいけれど不安が大きい」「どこから始めればいいのか分からない」というお気持ちがある場合は、職業リハビリテーションを活用することが大きな一歩になります。

職業リハビリテーションの対象者と利用できる条件

職業リハビリテーションとは、障害のある方が「自分らしい働き方を見つけ、無理なく働き続けるための支援」を受けられる制度です。
利用できる対象はとても広く、障害の種類や手帳の有無だけで判断されるわけではありません。

「働きたい気持ちはあるけれど、体調や特性に不安がある…」
そのような状況の方でも、安心して相談できるよう柔軟に設計されています。

ここでは、「どんな人が利用できるのか」を分かりやすく整理してご紹介します。

オフィスで働くビジネスウーマン

身体障害・知的障害・精神障害などの対象範囲

職業リハビリテーションの対象者は、主に以下のような方々です。

  • 身体障害者(肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、内部障害など)
  • 知的障害者
  • 精神障害者(うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害など)
  • 発達障害者
  • 難病による就労制限がある方(指定難病を含む)
  • その他、心身の機能障害者(障害があっても障害者手帳がない方はここに含む)

実際にはこれらに当てはまらなくても、「働くうえで困りごとがある方全般」が対象になるケースも多くあります。

たとえば、

  • 体力の低下で長時間勤務が難しい
  • コミュニケーションに不安がある
  • 職場環境へのストレスが大きい
  • 仕事の覚え方に困難がある

といった悩みでも、まずは相談することができます。

就労に関して悩みを抱える理由は人によって異なるため、専門機関では個別の状況を丁寧にヒアリングし、そのうえで適切な支援メニューを提案する仕組みになっています。

障害者手帳の有無にかかわらず利用可能なケース

「障害者手帳を持っていないけど、相談していいのかな…?」
と心配をされる方もいます。

しかし実際には、職業リハビリテーションの対象は手帳の有無に限定されていません。
障害者手帳がなく、対象となる代表的なケースは以下のような例があります。

  • 医師の診断書・意見書があり、就労に支援が必要と判断される場合
  • 発達障害や精神障害の診断直後で、手帳申請前の段階にある場合
  • 難病や体調不良で一般的な働き方が難しい場合
  • 障害者枠での就職を検討しており、適性や働き方を整理したい場合

なお、支援機関や受けるサービス内容によっては、利用に「障害者手帳」または「医師の診断に基づく受給者証」などが必要な場合もあります。

一方、ハローワークや障害者職業センターなど、公的機関では手帳がなくても相談できます。
「手帳がないから支援が受けられない」ということではありません。

むしろ、支援機関で相談を進めることで、

  • 自分に合う働き方の発見
  • 障害者手帳取得を検討するタイミングの相談
  • 就職活動の方向性の整理

といったメリットを得られることが多くあります。

働き方に不安がある方は、まず一度相談することをおすすめします。

職業リハビリテーションで受けられる主な支援内容

職業リハビリテーションとは、就職の準備から働き始めた後のフォローまで、長期的に寄り添い続ける総合的なサポートです。
この章では、実際にどのような支援を受けられるのかを、一つひとつ丁寧にご紹介します。
「何から始めればいいのか分からない…」という方でも、全体像がイメージしやすくなる内容に整えています。

職業評価で適性を確認し支援計画を立てる流れ

まず最初のステップは、「職業評価(アセスメント)」です。
ここでは、その方の強み・苦手・体調・働きやすい環境などを多角的に確認します。

適性検査や作業評価、これまでの職歴の棚卸しや、得意・不得意の整理などの結果をもとに、個別の支援計画(プラン)を作成します。

例えば、
「短時間勤務から始める」
「人と話す仕事より、コツコツ作業が向いている」
「ストレスを感じる場面を減らせる働き方にする」
といった、その方に合った方向性を明確にしていきます。

職業指導・職業訓練で学ぶスキルと実践的サポート

支援計画に沿って、必要な職業指導・職業訓練が始まります。
ここでは、働くうえで役立つ実践的なスキルを身につけることができます。

学べる内容は支援機関によって異なりますが、例えば以下のようなものがあります。

  • ビジネスマナー(報連相、電話の受け答え、ビジネス言葉遣い)
  • パソコンスキル(Word、Excel、メール操作など)
  • 軽作業スキル(検品、梱包、ピッキングなどの基礎)
  • コミュニケーションの練習
  • ストレスマネジメントやセルフケアの方法
  • 職場での相談方法やトラブル回避のコツ

精神障害・発達障害のある方の場合は、「感覚特性の伝え方」「得意・不得意をどう説明するか」などを言語化して伝える練習を行うこともあります。。

支援機関のスタッフは、訓練のペースを調整したり、体調に合わせて休憩時間の取り方を一緒に考えてくれたりと、無理なく取り組める環境づくりもサポートしてくれます。

教育ビジネスイメージ 面接をする女性のポートレート

職業紹介やトライアル雇用による就職活動の支援

就職活動に進む段階では、次のような実践的なサポートが受けられます。

  • 求人紹介(障害者枠・一般枠どちらも可)
  • 履歴書・職務経歴書の作成サポート
  • 模擬面接や自己PRの練習
  • 企業見学・職場実習の調整
  • 障害者トライアル雇用(原則3か月、要件あり)の利用調整

特に職場実習やトライアル雇用は、「働く前に実際の仕事を体験できる」重要な機会です。
職場の雰囲気や人間関係、自分に合うかどうかを事前に確認できるため、就職後のミスマッチを大きく減らせます。

ジョブコーチや就労定着支援による長期的な職場定着

就職が決まったからといって、支援が終わるわけではありません。
むしろ「働き始めてから」が本当のスタートです。

仕事を続けていく中では、誰もがさまざまな悩みにぶつかります。
そんなときに頼れるのが、以下の支援です。

■ジョブコーチ支援

  • 企業に訪問し、業務手順や環境の調整をサポート
  • 本人と職場の間に入り、コミュニケーションの橋渡しを行う
  • つまずきやすいポイントを整理し、改善策を一緒に考える

■就労定着支援(最長3年)

  • 生活面や体調管理も含めた総合的な相談支援
  • 職場での困りごとに長期的に寄り添い、転職せず続けられるよう支援
  • ストレス対処や環境調整を一緒に考える

これらの支援によって、就職後の不安が軽減され、「長く働き続けられる働き方」を実現しやすくなります。

 

職業リハビリテーションを担う主な機関と特徴

職業リハビリテーションとは、複数の支援機関が連携することで成り立っています。
どの機関にも特有の役割があり、状況や目的に応じて使い分けたり併用したりすることで、より自分に合った支援を受けられます。

ここでは、主な支援機関の特徴を分かりやすくまとめ、「どこに相談すればよいか分からない」という方でも安心して選べるよう解説します。

ハローワークや障害者職業センターの役割

まず、就労支援の中心的な窓口となるのがハローワーク(公共職業安定所)障害者職業センターです。
どちらも公共機関として全国に設置されており、利用しやすいのが特徴です。

■ハローワークの特徴

ハローワークには障害者向けの専門窓口があり、次のような支援が受けられます。

  • 障害者求人の紹介を受けられる
  • 専任スタッフによる相談対応
  • 応募書類の添削や面接アドバイス
  • トライアル雇用や助成金の案内

ハローワークは就職活動の「入口」となる存在です。
地元企業の求人を多く扱っているため、地域の雇用情報に詳しく、働く選択肢を広げたい方にとって頼りになる窓口です。

■障害者職業センターの特徴

障害者職業センターは、国の機関(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)として設置され、以下のように、より専門的な支援を行っています。

  • 職業評価(アセスメント)を受けられる
  • ジョブコーチ支援の利用ができる
  • 働くうえでの課題整理と支援計画の作成
  • 職場実習の調整や職場適応サポート

「働く準備ができているのか自信がない…」
そんな方にとって心強いサポートが揃っています。

就労移行支援事業所や職業能力開発校の専門的支援

続いて、より専門的な訓練や継続的なサポートを受けられるのが、就労移行支援事業所職業能力開発校(職業訓練校)です。

■就労移行支援事業所

障害福祉サービスの一つで、少人数の中で丁寧な支援を受けられます。

  • 最大2年間、就職に向けた訓練を実施
  • 生活リズムを整えながら働く準備ができる
  • パソコン・ビジネスマナー・コミュニケーションなどの訓練が充実

就労移行支援事業所では、就職後6か月間のフォロー(事業所による基本的な定着支援)に加え、障害福祉サービスの「就労定着支援」(最長3年)の利用も可能です。

とくに、精神障害・発達障害・難病のある方から高い支持を得ているサービスです。

体調に合わせたペースで通えるのも大きな魅力です。

■職業能力開発校(職業訓練校)

実践的なスキルをしっかり身につけたい方に向いているのが、この職業訓練校です。

ハローワークの障害者向けの窓口で申し込めます。

職業訓練校が「就職活動」扱いとなるため、失業給付を受けている方の場合、給付を受けながら通うことができます。

コースには一般向けと障害者向けがあり、内容には例えば以下のようなものがあります。

  • IT・事務・サービス・製造など多様なコース
  • 障害者向けの委託訓練が用意されている地域もある
  • 資格取得を目指せるコースが多い
  • 就職率の高い分野が多い

専門スキルを得ることで、将来の働き方の幅が大きく広がります。

地域支援センターによる生活面を含めたサポート

働くためには、生活の安定も欠かせません。
そこで支えになってくれるのが地域生活支援センター(相談支援センター)などの地域福祉機関です。

主に次のようなサポートが受けられます。

  • 生活リズムや体調管理の相談
  • 医療・福祉サービスの調整
  • 障害者手帳や各種制度の案内
  • 就労支援機関との連携サポート
  • 家庭環境やメンタル面の相談

就労と生活は切り離せないものです。
生活が安定することで、働き続ける力が自然と育まれていきます。
特に精神障害・発達障害のある方は、生活面と働く面の両方から支援を受けることで、より安定しやすくなります。

職業リハビリテーションを利用する流れと手順

職業リハビリテーションとは、相談の段階から就職後のフォローまで、一人ひとりに合わせた支援が段階的に進んでいく仕組みです。

初めて利用する方にとっては流れが分かりにくいこともあるため、ここでは「最初に何をする?」「どこに相談する?」といった疑問に寄り添いながら、順を追って丁寧に説明します。

自分がどの段階にいるのかをイメージしながら読んでいただくと、利用の不安がぐっと軽くなるはずです。

医療現場・カンファレンス(カメラ目線)

医師の意見を踏まえた準備と相談の開始

職業リハビリテーションを利用するには、まず相談につながるための準備をしておくとスムーズです。

特に障害者手帳がない方や、精神障害・発達障害・難病のある方の場合、医師の意見や診断が重要な情報になります。

■相談前の準備でしておきたいこと

  • 現在の体調や生活の状況を整理する
  • 主治医に「働きたい気持ち」や「不安に感じていること」を伝える
  • これまでの職歴や得意・不得意、悩みを書き出す

可能であれば医師に就労について相談し、意見書をもらえると支援が進めやすくなります。

これらの情報があると、支援機関での相談がよりスムーズに進み、自分に合った支援計画をつくるための大きな助けになります。

■最初の相談先として選べる機関

どこに相談すればよいか迷う方は、まず以下のいずれかに連絡すると安心です。

  • ハローワーク(障害者専門窓口)
  • 障害者職業センター
  • 就労移行支援事業所
  • 地域生活支援センター

状況を伝えると、どの機関を利用するとよいか丁寧に案内してくれますので、迷っている段階でも気軽に相談できます。

支援計画の作成から就職後のアフターケアまで

相談を開始したら、次は支援計画を作成する段階に入ります。

支援計画とは、就労に向けて必要なサポートの方向性をまとめたもので、職業リハビリテーションの土台になります。

■支援計画づくりの流れ

  1. 職業評価(アセスメント)
     一人ひとりの適性や体調、コミュニケーション傾向などを評価します。
  2. 個別支援計画の作成
     自分に向いている仕事や働き方を明確にし、訓練内容やペース、目標を設定します。
  3. 訓練・支援の実施
     パソコン訓練、生活支援、コミュニケーション練習、応募書類の作成などを行います。
  4. 就職活動・職場実習
     求人紹介、企業訪問、職場実習、トライアル雇用を通じて、自分に合う職場を実際に確認します。
  5. 職場定着支援(ジョブコーチ・定着支援)
     就職後も定期的なフォローを受けながら、働き続けられる環境づくりをサポートします。

職業リハビリテーションの大きな強みは、「就職して終わり」ではなく、働き始めてからも手厚いサポートが続くことです。

働き始めると、誰でも悩みや不安が出てきます。

そんなとき、相談できたり、環境調整の手伝いをしてもらえたりすることで、長く安定して働ける確率がぐっと高まります。

まとめ——職業リハビリテーションを活用し安定した働き方を実現するために

職業リハビリテーションとは、障害のある方が「自分らしい働き方を見つけ、安心して社会参加できるように支える総合的なサポート」です。

本記事で解説してきたように、その支援内容は「就職のための練習」だけでなく、準備・就職活動・定着支援まで、幅広くカバーされています。

働くことは、収入に限らず、生活の安定や心の健康にもつながる大切な要素です。

だからこそ、一人で抱え込むのではなく、専門機関と一緒に安心して進めていける環境を整えることがとても重要です。

ここでは、職業リハビリテーションをより上手に活用するためのポイントをあらためて整理します。

パソコンを持って案内をする笑顔の女性

1.自分の現状・特性を客観的に整理すること

就職にあたって、「どんな働き方なら無理なく続けられるか」「どんな特性があるのか」を言葉にしておくと、支援内容がより自分に合ったものになります。

医師の意見書や診断書も大切な情報のひとつです。

  • 体調面の課題
  • 得意・不得意
  • ストレスの原因
  • 希望する働き方

こうした要素を整理するだけでも、支援の精度が大きく変わります。

2.目的に応じて適切な支援機関を利用すること

支援機関にはそれぞれ得意分野があります。

  • 働く準備を整えたい→障害者職業センター
  • スキルを身につけたい→就労移行支援事業所/職業能力開発校
  • 求人紹介や面接サポートが欲しい→ハローワーク
  • 生活面の相談も必要→地域生活支援センター

複数の機関を組み合わせて利用することで、自分に合ったサポートをより受けやすくなります。

3.就職後も支援を受けながら働き続けることを意識すること

就職した後こそ、悩みが出やすいタイミングです。

  • 人間関係の不安
  • 仕事の覚え方に関する悩み
  • 体調面のゆらぎ
  • 職場環境への戸惑い

こうした問題を一人で抱える必要はありません。

ジョブコーチ支援就労定着支援を活用すれば、職場との橋渡しや業務調整など、継続的なフォローが受けられます。

働くことは、不安や緊張を伴うこともありますが、同時に「自分の力が社会で役に立っている」と実感できる尊いプロセスです。

職業リハビリテーションは、その一歩一歩に寄り添いながら、あなたの「働きたい」という気持ちを大切に支えてくれます。

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この記事の執筆者

村上 智之職業:愛知県委託事業 資格:障害者パソコン訓練(スクエアマイスターシューレ)校長
村上 智之職業:愛知県委託事業 資格:障害者パソコン訓練(スクエアマイスターシューレ)校長

2012年スクエアプランニング株式会社を設立。2016年より障害者パソコン訓練を愛知県の委託を受けて開始。人材ビジネス20年以上の経験をもとに様々な障害をお持ちの訓練生に対して社会進出、社会復帰のお手伝いをさせて頂いております。 今後もより多くの方に安心や自信を持って頂くことを念頭に、様々な情報発信をしていきたいと考えています。

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